熱膨張係数とは、熱による単位温度変化当たりの物質の膨張を定量的に数値化したものです。熱エネルギーにより、原子や分子の運動が活発になることで生じます。日常生活で見かける電車のレールや長い橋の継ぎ目にも、熱膨張対策が講じられています。本記事では熱膨張係数について種類、具体例、原理、計算式、測定方法まで解説します。
熱膨張係数とは
熱膨張とは、一定の圧力で物質に熱が加えられることで体積が膨張または収縮、あるいは長さが伸縮することを意味します。また、熱膨張係数は、熱膨張をより定量的に表すために単位温度変化当たりの体積や長さの変化率に換算した数値です。
熱膨張の具体例
熱膨張は、日常生活において見ることができます。
例えば、非耐熱性のガラスコップに熱湯を注ぐと割れるのは、熱膨張が生じ、ガラスの構造がそのひずみに耐えられなくなって割れるからです。
また、体温度計は、体温によって温められたアルコールや水銀が熱によって膨張し、体温に相当する長さまで細菅を満たすことで、温度を測定することができるのです。
熱膨張の原理
熱膨張の原理は、物質内の分子の動きです。
原子や分子は、熱が加えられると振動します。振動は加えられる熱の量によって大きくなり、原子や分子が互いにぶつかり合いながら移動領域を広げます。
この結果、同じ数の原子や分子(つまり同じ重量の物質)でも物質当たりの体積が大きくなるのです。熱膨張係数は、固体<液体<気体の順に大きくなります。
固体、液体と気体の熱運動のイメージ |
Try it 5分でわかる!熱運動と物質の状態をもとに作成
熱膨張の種類
熱膨張には線膨張と体膨張があります。線膨張は、物質に熱が加えられることで物質の長さが伸びること、体膨張とは物質に熱が加えられることで物質の体積が増加することを意味します。
熱膨張係数の計算式
物質の線膨張係数αは、次の式で表されます。
α=1/l・dl/dt (l:物質の長さ dl:長さの変化量 t:物質の温度 dt:温度の変化量) |
また、体膨張係数βは次の式で表されます。
β=1/V・dV/dt (V:物質の体積 dV:体積の変化量 t:物質の温度 dt:温度の変化量) |
この式から分かるように膨張係数は、温度の差により生じた長さ(線膨張)や体積(体膨張)のを長さや体積の逆数と乗じることで得られます(単位は1/Kもしくは1/℃)。
熱膨張係数の応用例
物質の熱膨張係数を利用した日常生活に見られる応用例を3つ紹介します。
排水用の塩ビパイプ
仮に塩ビパイプだけで連結すると温度の変化でどこかにひずみが発生し、破損や割れの原因となります。そこで、意図的にところどころに柔らかい素材のホースを連結して、熱膨張による長さや体積の増加を吸収するように設計されています。
電車のレール(鉄)
レールのつなぎ目をよく見るとわずかな隙間が見られます。この隙間により、レールが熱膨張した際にずれない仕組みになっています。これは、乗客が安全に電車を利用できる工夫です。
橋や道路のつなぎ目
この隙間は、遊間(ゆうかん)※と呼ばれ、コンクリートの長い橋や高速道路で見られます。この隙間によって、夏場高温のときに構造物の熱膨張を吸収し、道路や橋の膨張を解消します。
※参考:伸縮装置Navi
熱膨張係数の測定方法
液体の場合、熱膨張係数と粘性は反比例の関係にありますので、粘度を測定すれば熱膨張係数が評価できます。
粘度の測定には、毛細管粘度計(オストワルド法、ウベローデ法など)、回転粘度計(スピンドル法、コーン法など)、振動粘度計(音叉式、振動板式など)があります。
まとめ
本記事では、熱による物質の膨張度合いを定量的に数値にした熱膨張係数について解説しました。
熱膨張係数は、物質の単位温度変化当たりの体積や長さの変化値です。
また、熱膨張は熱による分子や原子の振動により、原子や分子が互いにぶつかり合いながら移動領域が広がることで生じます。熱膨張は気温の変化で必ず発生し、日常生活でよく見かける構造物は、熱膨張率を見越した設計になっています。
例えば、電車のレールや遊間(ゆうかん)と呼ばれる橋の繋ぎ目には、あらかじめ隙間が設けられているのです。
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代表取締役 池端 久貴
化学メーカーで営業、半導体装置メーカーでマーケティングの経験を経て、総合研究大学院でマテリアルズ・インフォマティクスを研究。その後、統計科学博士を取得し、旭化成(株)でマテリアルズ・インフォマティクスや自然言語処理技術活用の推進に従事。2022年に(株)CrowdChemを創業。