液晶ポリマーとは、液体と固体の中間の性質を示す化学物質です。ポリマーで棒状の剛直な分子構造を持ち、分子同士の絡み合いが少ないという特徴があります。
液晶ポリマーの主な用途は、電気・電子部品や自動車部品です。今回は、液晶ポリマーの用途、構造、性質、機能発現メカニズムについて解説します。
液晶ポリマーとは
液晶ポリマーとは、LCP(Liquid Crystal Polymer)とも呼ばれ、液晶性※を示す熱可塑性樹脂です。結晶性ポリマーが固体状態で結晶化して液体状態で結晶構造が崩れるのに対し、液晶ポリマーはいずれの状態でも結晶構造を持ちません。
その結果、固体状態でもわずかな刺激で分子の位置が変わったり、分子鎖が一方向に揃ったりします。液晶ポリマーは、分子の配置に層構造がないネマチック液晶と、層構造を持つスメクチック液晶に分類されます。
※液晶性:液体のような流動性と、結晶のような異方性の両方の特性を持つ特異な性質のこと。分子が液体のように位置が定まっていないが結晶のように配向している状態。
参照:化学と教育 64巻5号(2016年)220頁 分子が配向を保つ液体――液晶
液晶ポリマーの用途
液晶ポリマーの主な用途は、電気・電子部品や自動車の内装部品です。
例えば、パソコン、スマートフォン及びタブレットに搭載されるコネクタなどに使用されています。さらにリレー、スイッチ、ボビン、光ピックアップ部品などにも使用されており、電気・電子部品、自動車の内装部品は、超精密成形や薄肉成形が求められる分野です。
将来、不織布や光ファイバー部品などへ用途展開が広がることが見込まれています。
分野 | 用途 |
電気・電子部品、自動車の内装部品 | パソコン、スマートフォン、タブレットに搭載されるコネクタ、リレー、スイッチ、ボビン、光ピックアップ部品 |
将来見込まれる分野 | 不織布、光ファイバー部品 |
液晶ポリマーの構造
代表的な液晶ポリマーの構造例は、次のとおりです。
芳香族環により、分子の構造が直線的、あるいは剛直的である特徴が化学構造から見受けられます。
液晶ポリマーの性質
液晶ポリマーは、機械的強度、耐熱性、耐薬品性、難燃性、高い弾性率、ガスバリア性、寸法安定性に優れ、プラスチックのなかでもスーパーエンジニアリングプラスチックに分類されるほど高性能です。
さらに液晶ポリマーは、溶融状態での流動性、成形性にも優れていることから加工がしやすく、特に高性能で精度が要求されるハイテク部品に使用されています。
液晶ポリマーの反応
液晶ポリマーの中でも、芳香族系ポリエステル液晶ポリマーは、工業的にエステル交換法で製造されています。
通常、高温溶解法が用いられ、酢酸金属塩やチタン化合物、マグネシウム化合物を触媒として使用し、芳香族ジカルボン酸と芳香族ジフェノールを脱水反応させたり、芳香族ジ酢酸と芳香族ジフェノールを脱酢酸反応させたりします。
また、パラオキシ安息香酸、イソフタル酸、4,4’-ジヒドロキシジフェニル、p-フェニレン、テレフタル酸などを用いた芳香族ポリアミド液晶ポリマーは、縮合反応で得られます。
液晶ポリマーの機能発現メカニズム
液晶ポリマーは、溶融状態では分子鎖の絡み合いが少なく、互いに相互作用が少ない特徴があります。この原因は、芳香族環の平面的な構造にあります。
さらに隣接する酸素原子(主にエステル)、窒素原子(主にポリアミド)とSp2軌道で電子を共有し、剛直性が強化されます。また、隣接する分子との間で酸素や窒素原子を介したクーロン力や、芳香族環を介した弱いファンデルワールス力(π/πスタッキング)でしか相互作用し合えないことも要因に挙げられます。
以上のことから、わずかな剪断力で分子がずれ、固体状態でも分子が結晶構造をとれないのです。
液晶ポリマーを製造しているメーカー
液晶ポリマーを持つ有機化合物を製造している主な国内メーカーは、次のとおりです。様々な用途で、様々なグレードの製品が製造・販売されています。詳細は各社のウェブサイトをご参照下さい。
企業名 | 主な製品名 |
住友化学株式会社 | スミカスーパーlcp |
ポリプラスチックス株式会社 | ラペロス® lcp |
株式会社クラレ | ベクスター® |
まとめ
本記事では固体状態と液体状態の中間の性質を示す液晶ポリマーについて解説しました。液晶ポリマーは分子構造が剛直でわずかな剪断力でも分子がずれるため、固体状態でも結晶構造をとることができません。
この性質により機械的強度、耐熱性、耐薬品性、難燃性、高い弾性率、ガスバリアなどが発現し、電気電子や自動車の高機能な部品に利用されています。液晶ポリマーは、高い性能が求められるハイテク分野で使用されるスーパーエンジニアプラスチックなのです。
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代表取締役 池端 久貴
化学メーカーで営業、半導体装置メーカーでマーケティングの経験を経て、総合研究大学院でマテリアルズ・インフォマティクスを研究。その後、統計科学博士を取得し、旭化成(株)でマテリアルズ・インフォマティクスや自然言語処理技術活用の推進に従事。2022年に(株)CrowdChemを創業。