本記事では色素について取り上げます。私達が日常で使用している製品の着色には染料や顔料が使用されていて、多くの場合、色素が関係しています。色素が発色する原因は、可視光と分子との相互作用にあります。そこで今回は、色素の歴史、種類、用途、構造、発色メカニズム、メーカーについて紹介します。
色素とは
色素とは、光との相互作用で特定の波長の可視光を吸収したり放出したりして発色する分子のことです。どのような色に発色するかは、分子中の電子のエネルギー準位が関与していることから、色素分子の化学構造が大きく影響します。
他方、シャボン玉の膜やタマムシの甲羅のように物質の物理的な形状と光の干渉により色が発現することもあります。この要因は薄膜干渉や回折格子、光散乱などであり、色素の発色と異なるメカニズムによります。
(薄膜干渉、回折格子や光散乱は、化学構造的な要因ではなく、光と物理的形状との相互作用が要因となるため、今回本記事では割愛します)
色素の歴史
色素を顔料と染料に分けて歴史を紐解くと、顔料の歴史の方が古くから人類に使用されています。
人類が初めて顔料を使用したのは約15万年〜6万年前の旧石器時代です。ネアンデルタール人は当時、顔料による身体彩画や死人を埋葬する棺に赤色の顔料を振りまいていました。(参照元1)
産業革命以来、今日まで多くの合成顔料が発見され、絵画やファッションに利用され始めました。
一方、染料系の色素は顔料よりも新しく、紀元前7世紀のバビロニアの楔形文字で書かれた板に染色法の記録があります。(参照元2)その後、英国の化学者ウィリアム・ヘンリー・パーキンによって紫色の人工色素「モーブ」が発見され(参照元3)、人類による色素の利用が加速しました。
参照元1:H.キューン著、『人類と文化の誕生』みすず書房
参照元2:古文書バビロニアのタルムードより
参照元3:繊維工学Vol,54, No.10 (2001) 今田邦彦著、『染料技術者のための染料化学』
色素の種類
色素は大きく、天然色素と合成色素に分類されます。それぞれ(天然、人工)×(染料、顔料)×(動物、植物、鉱物)の掛け算で分類したものが次の図です。
色素の分類 |
ここで染料と顔料の違いについて触れます。
一般に染料は水や有機溶剤によく溶けます。鮮やかに発色する利点がありますが、退色しやすいという欠点があります。他方、顔料はそのまま水や有機溶剤に溶けません。光に強く退色しにくいという特徴があります。
色素の用途
色素は、染料と顔料で用途が異なります。染料と顔料それぞれの用途を以下の表にまとめました。
色素 | 用途 |
染料 | 繊維・紙・皮革の染色、食品着色料、インクジェットプリンター用インキ生化学用試薬、染毛剤など |
顔料 | 塗料、トナーインキ、絵の具、陶磁器の着色、プラスチックやゴムの着色、油性インク、化粧品など |
色素の構造
染料の発色は、多くの場合、共役π電子系から得られます。具体的には芳香環を備えた母体となる化学構造にアミノ基(-NH2)や水酸基(-OH)などの官能基を修飾することで、より色合いが深くなり、良好な染色素材となります。
Disperse Blue 14 |
他方、顔料の多くは遷移金属元素が関与して発色します。顔料母体に存在する金属の配位子の孤立電子対が金属イオンのd電子中の電子と相互作用し、可視光を吸収します。
代表的な顔料:銅フタロシアニン |
色素の発色メカニズム
人が視覚的に感じることのできる光は、波長域380〜780nmと言われています。この領域に波長を有する光を可視光といいます。太陽光や蛍光灯の光はあらゆる波長の光を含んでおり、人には白色に見えます。
しかし、太陽光や蛍光灯の一部の光だけ吸収する物質が存在した場合、吸収しなかった波長の反射光を人は色として感知します。
可視光線 |
色素は光があたって吸収や放出する際に特定の波長の可視光のみ反射します。
光の吸収は、分子の電子のエネルギー準位が基底状態から励起(れいき)状態に移行する際に生じます。この電子の移動が光を吸収するメカニズムであり、反射光を人が色として認識する理由です。
色素を製造しているメーカー
色素を製造している主な国内メーカーは、次のとおりです。様々な用途に、様々なグレードの製品が製造・販売されています。詳細は各社のウェブサイトをご参照下さい。
企業名 | 主な製品名 |
理研ビタミン株式会社 | リケカラー® |
山田化学工業株式会社 | FDBシリーズ、FDNシリーズ |
大日精化工業株式会社 | クロモファイン |
トーヨーカラー株式会社 | LIONOLシリーズ |
まとめ
色素とは、光との相互作用で特定の波長の可視光を吸収したり放出したりすることで発色する分子のことです。色材は天然、人工、染料、顔料の組み合わせで分類され、各分類によって用途が異なります。
一般に染料は水や有機溶剤に可溶、インクジェットプリンター用インキなどに使用され、顔料は水や有機溶剤に不溶、トナーインキなどに使用されます。
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代表取締役 池端 久貴
化学メーカーで営業、半導体装置メーカーでマーケティングの経験を経て、総合研究大学院でマテリアルズ・インフォマティクスを研究。その後、統計科学博士を取得し、旭化成(株)でマテリアルズ・インフォマティクスや自然言語処理技術活用の推進に従事。2022年に(株)CrowdChemを創業。