生分解性プラスチックとは?生分解メカニズムとプラスチックごみに関する課題を解説

プラスチックごみの取り扱いが世界で大きな課題となっているなか、課題解決に導く素材として生分解性プラスチックが注目されています。

生分解性プラスチックはどのような性質を持ち、いかなるメカニズムで分解されるのでしょうか。また、生分解性プラスチックは、どのような目的で開発されたのでしょうか。

今回は、生分解性プラスチックのメカニズムとプラスチックごみに関する課題について、解説します。

目次

生分解性プラスチックとは

環境配慮が求められる昨今、自然界に残り続けてしまうプラスチックの代替素材の検討が進められてきました。ここでは、検討が進む素材のなかで注目されている、有機レベルまで分解可能なプラスチック「生分解性プラスチック」について紹介します。

自然に還る「生分解性プラスチック」

生分解性プラスチックとは、土の中やコンポスト、海底などの微生物の働きで有機化合物が分子レベルまで分解される性質を持ち、最終的に水と二酸化炭素など自然に還るプラスチックを指します。

プラスチックと同じ性質や機能を持ちつつ、役目を終えた後は、微生物により分解されて自然に還ります。

一方、一般的なプラスチックは自然界に存在する微生物にとって未知の物質であり、分解されることがありません。このため、一度自然界に流出してしまうと、ほぼ永久的に残り続けてしまいます。

耐久性が必要となる製品には都合の良い性質ですが、自然環境にとっては大きな問題となります。

生分解性プラスチックの生分解メカニズム

これまで分解されなかったプラスチックを、どのような工夫で分解可能にしたのでしょうか。

生分解性プラスチックにはさまざまな種類がありますが、本記事では、化学合成系のポリ乳酸を素材とした生分解性プラスチックについて解説します。

ポリ乳酸の分解は、二段階に分かれます。

第一段階として、ポリ乳酸は約60℃以上の温度になると、加水分解という現象によって周囲の水分を取り込み、分子の鎖が切れて、乳酸へと分解されます。分解は一気に進むのではなく、徐々に分子量が減っていき、構造が単純化していきます。

分解が進み、一定以下の分子量になると、第二段階目として、微生物による生分解が起きて乳酸が二酸化炭素と水などに分解され、自然界に還るという流れです。

生分解性プラスチックの特性

生分解性プラスチックの特性は自然界に還る点です。しかし、どんな環境下でも分解されるわけではない、という点も理解した上で、適材適所で使用することが求められます。

ポリ乳酸の場合、初期の分解が開始されるためには約60℃の温度が必要です。

土の中やコンポストといった発酵による高温が発生する環境であれば分解が進みますが、温度条件を満たさない場合、一般的なプラスチックと同様に、自然界に残ってしまいます。

国内では、ハイケム株式会社が、ポリ乳酸を活用して、樹脂ペレットや綿、繊維、不織布として実用化しています。

現代社会での生分解性プラスチック活用例と課題

ここまで、生分解性プラスチックの基本的な特性とメカニズムについて解説してきました。ここからは、生分解性プラスチックの現代社会での活用例について紹介していきます。

暮らしの中で使われるプラスチック

一般的なプラスチックは、軽量、耐水性・耐薬品性があるといった特徴から、日用品や包装材料、機械部品など、さまざまな用途で使われています。

一方、生分解性プラスチックは食品包装、簡易食器、キャラクター商品、シャンプーボトルなどで実用化されています。

生分解性プラスチック活用の取り組みは欧米において先行していますが、日本でも、土木工事用資材やコンポスト用ゴミ袋などでの利用が始まっています。

成形に耐えられる物理・化学特性を備え、耐熱性や難燃性などの向上についての研究が進んでいて、さらなる用途拡大が予想されます。

プラスチックに関する課題

プラスチックは適切に廃棄されればリサイクルにつながりますが、不法投棄やポイ捨てなどによって自然界に流出してしまうと分解が進まず永久的に残ってしまうため、自然環境に悪影響を与えます。

例えば、川の周辺で捨てられたプラスチックごみが川から海へ流出し、海の生き物に悪影響をおよぼします。また、海に住む魚や貝を食べる人間にも影響の連鎖が懸念されます。

プラスチックごみに関する課題解決例

生分解性プラスチックは海中でも微生物に分解されるため、一般的なプラスチックと比較すると自然界への影響を軽減することが期待できます。

生分解性プラスチックの中で、ポリヒドロキシルアルカノエート(PHA)という天然ポリエステルを素材とするものであれば、海水中でも生分解が生じます。

でんぷんやグリコーゲンなどと同様に微生物の細胞内に取り込まれます。このため、釣り糸や、漁業用の網への使用が期待されています。

生分解性プラスチックの応用例

ここからは、生分解性プラスチックの応用事例を紹介し、今後の可能性について解説していきます。

紙カップやショッピングバッグ

地球にやさしい生分解性プラスチックは、環境意識の高い企業で、製品への採用が進められています。例えば大手コーヒーチェーンでは、ホットドリンク用の紙カップに耐熱性を持たせるためのラミネートに、生分解性プラスチックを採用しています。100℃近くまでの耐熱性を持ちながらも環境に優しい素材を用いることで、環境への取り組みのアピールにもつながります。

また、大手アパレルブランドでもショッピングバッグや包装紙などに生分解性プラスチックを採用しており、環境問題に対する企業の姿勢が変わってきています。

農業用マルチフィルム

農業用のマルチフィルムにも生分解性プラスチックが応用されています。マルチフィルムは畑のうねを覆うもので、うねの上の雑草抑制や、土の保温・保湿、虫除けのために使用されています。

従来のマルチフィルムは一般的なプラスチックでできているため、回収し、産業廃棄物としての処理が必要です。しかし生分解性プラスチックであれば、薄く設計することも可能で、農作物の収穫後に土の中にすき込む作業も簡単です。すき込んだ後は、土の中の微生物が分解を進めてくれるため、回収・廃棄といった手間も軽減されます。

普及までの課題

生分解性プラスチックが現在より普及するためには、次のとおり、大きく3つの課題があります。この課題の解消が普及の糸口とも言えるでしょう。

・一般的なプラスチックより高価な傾向がある

・すぐに分解されるわけではなく、分解に時間を要する

・使い捨てが前提である

現在の技術では、大量かつ安価に製造することができないため、使用する際のコストが高くなってしまいます。また、特性上、微生物の影響を受けることもあり、再利用が保証されていません。

また、分解はされますが、完全に分解されるまである程度の時間が必要であり、微生物の活性具合に依存するため加工期間の考慮が必要です。

分解に関する制御は難しく、強力な分解菌を利用した分解促進技術の追求が望まれています。

例えば、国立研究開発法人 農業環境技術研究所(現在の農研機構農業環境変動研究センター)が、生分解性プラスチックを効率よく分解する微生物(酵母菌)をイネの葉の表面から発見したことを発表していて、今後もこのような技術を活かした技術開発が期待されます。

(参照:独立行政法人 農業環境技術研究所「農環研が生分解性プラスチックを強力に分解する微生物をイネの葉の表面から発見―プラスチックごみの減量と省力化に期待―」

 生分解性プラスチックの今後の展望

この記事では、生分解性プラスチックの生分解メカニズムと応用例について、解説しました。この記事でのポイントは、以下の通りです。

  ・生分解性プラスチックは微生物の働きにより有機化合物が分子レベルまで分解される性質を持ち、最終的に水と二酸化炭素などになるプラスチックである

 ・生分解性プラスチックとして用いられる素材は、ポリ乳酸やポリヒドロキシルアルカノエート(PHA)など、用途に応じてさまざまなものが用いられている

 ・生分解性プラスチックは、土木用工事資材や紙カップ、農業用マルチフィルムなど、生活に身近なところから産業面まで幅広い応用例が見られる

 「Report Ocean(レポート オーシャン)」のプレスリリースによると、生分解性プラスチックの世界市場規模は、2019年に16億ドルと評価されており、2027年までに42億ドルに到達すると予測されています。(参照:Report Ocean「生分解性プラスチック市場は、2027年まで13.3%のCAGRで目覚ましい成長が見込まれています」

世界的に持続可能性や生分解性に関する環境施策が推進されており、生分解性プラスチックは今後の需要増加が期待されます。本記事を通して、生分解性プラスチックに関する知識を深めていただければ幸いです。

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