誘電正接(tanδ)とは、絶縁体(主にコンデンサ)に交流電場が印加されたときの損失エネルギー値を意味します。高性能コンピュータやスマートフォンなどの移動体通信機器の高周波部品には、高誘電率で低誘電正接な絶縁体が求められます。本記事では、誘電正接について原理、高・低誘電正接、用例、原理、測定方法を解説します。
誘電正接とは
誘電正接(tanδ)とは、絶縁体(実用上、以降コンデンサと表記します)の性能を評価する基準値を意味します。
コンデンサに交流電圧を印可すると電荷を蓄えたり放出したりしますが、電流の漏れや部分放出、誘電分極などによって放出される電荷は、蓄えた電荷より少なくなります。このエネルギーの損失の程度が誘電正接(tanδ)です。
損失エネルギーは、熱エネルギーに変換されます。
誘電正接の原理
理想コンデンサに流れる電流をIc、寄生抵抗(電荷損失の原因となる意図しない抵抗)に流れる電流を Irとすると、誘電正接は次の式で表されます。
誘電正接=tanδ=Ir/Ic=1/ωCRp |
ここで記載しているωは角周波数、Cは静電容量、Rpは寄生抵抗値です。
式から分かるように誘電正接とは、寄生抵抗がない理想コンデンサに対する、寄生抵抗が発生する現実コンデンサの電流の比となります。視覚的に表現すると、次の図のようになります。
誘電正接の大きさとコンデンサの性能との関係
誘電正接の値は、交流電場が加わったときのコンデンサからのエネルギー損失を表すことから、誘電正接が高い場合と低い場合によって性能が変わります。
例えば、エネルギー損失の低い「低誘電正接」のコンデンサの方が、エネルギー損失の高い「低誘電正接」と比較して高性能です。
なぜなら低誘電正接のコンデンサの方が電荷の損失が少なく、放熱量が低く抑えられ、絶縁性の低下や電子回路の不具合が抑制されるからです。
一方、コンデンサ材質特有の性能は誘電率で評価できます。誘電率とは、コンデンサそのものの誘電分極のしやすさを表します。
誘電率の高いコンデンサほど、蓄えられる電荷が大きく高誘電正接です。高誘電正接のコンデンサは、交流電場を加えた際に電荷損失が増加するので、回路の設計時には電荷損失とのバランスをとる必要があります。
高誘電率で低誘電正接なコンデンサの用途
高誘電率で低誘電正接なコンデンサは、回路の小型化が可能です。近年このようなコンデンサは主に高周波回路に使用されます。
また、磁性材料との組み合わせによって高周波帯で使用可能なセラミックマグネットにもよく見られます。さらに、電波を吸収する電波吸収体も最近注目されている用途です。
高性能コンピュータや移動体通信機器(スマートフォンやカーナビ)など、高周波部品が使用される製品が多くなるなか、高誘電率で低誘電正接なコンデンサの用途は今後ますます広がると予想されます。
誘電正接の測定方法
日本産業規格 のJISC 2138:2007には、誘電正接の標準的な測定方法が記載されています。
誘電正接の測定法は、零位法と共振法の2つがあります。零位法は、50 MHz以下の周波数で試験を行い測定は置換法、共振法は10 kHz〜数百MHzの周波数範囲で試験を行い測定は容量置換法を用います。
さらに、JISC 2138:2007には具体的な測定装置が記載されています。例えば、シェーリングブリッジ、変成器ブリッジ、並列T形回路、電圧上昇比法(Qメータ法)、容量変化法(サセプタンス変化法、リアクタンス変化法)などです。
共振法(電圧上昇比法Qメータ法)の回路図 |
まとめ
本記事では、主にコンデンサの性能の指標となる誘電正接(tanδ)について解説しました。
誘電正接は、理想コンデンサに流れる電流Icに対する寄生抵抗に流れる電流 Irの比で表される数値です。コンデンサに電荷を加えたときの、損失エネルギーを意味します。
放熱量を低く抑え、絶縁性の低下や電子回路の不具合を抑制するためには、高誘電率かつ低誘電正接のコンデンサが適しています。高性能コンデンサは高周波部品の用途が広がる中、年々重要度が高まっています。
株式会社CrowdChemが公開した「CrowdChem Data Platform(クラウドケム データ プラットフォーム)」では、”誘電正接に影響する製品のカタログ情報” や “その製品と紐づいた特許情報” を含む、化学分野に関する知見や知識を提供しています。
一部は無料でご利用いただけますのでぜひご活用ください。「CrowdChem Data Platform(クラウドケム データ プラットフォーム)」の無料トライアルはこちらから。株式会社Crowd Chemについて詳しくはこちらから。
代表取締役 池端 久貴
化学メーカーで営業、半導体装置メーカーでマーケティングの経験を経て、総合研究大学院でマテリアルズ・インフォマティクスを研究。その後、統計科学博士を取得し、旭化成(株)でマテリアルズ・インフォマティクスや自然言語処理技術活用の推進に従事。2022年に(株)CrowdChemを創業。