【熱可塑性エラストマーとは?】種類、用途、構造、製造法、メーカーについて解説

熱可塑性エラストマーは加工が容易で、ゴムのような弾性を示します。本記事では、熱可塑性エラストマーの種類や用途、構造、製造法、メーカーについて解説します。

目次

熱可塑性エラストマーとは

「エラストマー」という単語は、「elastic(弾性)」 と 「polymer(高分子化合物)」 の合成語です。いわゆるゴムのような弾性のある素材で、熱硬化性エラストマー(通常の天然ゴム、合成ゴム)と熱可塑性エラストマーに分類されます。

熱可塑性エラストマーとは加熱・冷却により液体状態と固体状態を可逆的に行き来する熱可塑性を示すことから、製造上の自由度が高いという特長があります。また、熱硬化性エラストマーとは異なり、リサイクルが可能で環境にやさしいゴム素材です。

熱可塑性エラストマーの種類

熱可塑性エラストマーはその化学構造から、ポリスチレン系、ポリオレフィン系、塩化ビニル系、ポリウレタン系、ポリエステル系、ポリアミド系に分類されます。

分類ハード部位ソフト部位特長
ポリスチレン系ポリスチレンブタジエンイソプレン柔軟性、弾力性
ポリオレフィン系ポリエチレンポリプロピレンエチレン/プロピレンゴム耐候性、成形性
塩化ビニル系ポリ塩化ビニルポリ塩化ビニルニトリルゴムゴム弾性、成形性、耐オゾン性
ポリウレタン系ジイソシアネート短鎖ジオールジイソシアナート長鎖ポリオール強度、弾力性、耐摩耗性、耐屈曲性、耐油性
ポリエステル系ポリエーテル共重合体ポリエーテル共重合体耐摩耗性、耐熱性、耐油性
ポリアミド系ポリアミドポリエステルポリエーテル耐薬品性、耐摩耗性、柔軟性、接着性

熱可塑性エラストマーの用途

熱可塑性エラストマーは、日用品から精密機器まであらゆる用途に使用されています。

具体的には、筆記用部の手にあたる滑り止め部分、靴底、建築用床材、自動車の内装部品、各種パッキンや包装フィルム、チューブ類、電気部品、建材シート、電線の被覆などに用いられています。

熱可塑性エラストマーの構造

熱可塑性エラストマーは、ハード部位とソフト部位の相構造です(下図)。

例えば、ポリオレフィン系の熱可塑性エラストマーの場合、ハード部位は結晶ポリスチレン、ソフト部位は、ブタジエンやイソプレンの重合体で構成され、それぞれ可塑性と弾性の役割を担っています。

ハード部位(架橋性)とソフト部位(弾性)は、互いに化学結合している状態、または混合した状態で存在します。

化学結合している状態は「ブロック共重合体」と呼ばれ、同一の熱可塑性エラストマー分子の中でハード部位とソフト部位が化学的に結合しています。

他方、混合した状態で存在している場合は「ポリマーアロイ」と呼ばれ、ハード部位とソフト部位を有する分子が物理的に混合した相構造を形成しています。

熱可塑性エラストマーの製造法

熱可塑性エラストマーの最大の特長は、一般の天然ゴムや合成ゴムとは異なり、熱可塑性であることです。そのため、熱可塑性プラスチックと同様の射出成形、押出成形、押出ブロー成形、圧縮成形などの方法で加工することが可能です。

熱可塑性エラストマーのメリット・デメリット

熱可塑性エラストマーのメリット・デメリットについて、天然ゴムと比較しながら解説します。

まず、熱可塑性エラストマーのメリットは加熱・冷却によって液体状態と固体状態を可逆的に行き来することです。

例えば、ポリエステル系の熱可塑性エラストマーの軟化点は160℃前後です。この温度以上になると流動性を示し、射出成形や押出成形などで思い通りに加工できます。さらに、液状で様々な添加剤を均一に混合できるので、用途に応じた性質を付与できます。このような加工は熱硬化性の天然ゴムでは困難です。

また、熱可塑性エラストマーは天然ゴムと比較して比重が小さいという特徴があります。この特徴のおかげで熱可塑性エラストマーは、軽症化やコンパクト化が求められる最終製品に多用されます。

他方、高熱にさらされても形状が安定している点は、天然ゴムの方が秀でています。なぜなら熱可塑性エラストマーの持つ「熱可塑性」は熱によって変形しやすいことがデメリットになるからです。

さらに、熱可塑性エラストマーには天然ゴムより耐油性に劣るというデメリットもあります。

熱可塑性エラストマーを製造しているメーカー

熱可塑性エラストマーを製造している主な国内メーカーは、以下のとおりです。様々な用途に、様々なグレードの製品が製造・販売されています。詳細は各社のウェブサイトをご参照下さい。

企業名主な製品名
三菱ケミカル株式会社テファブロック™ TPOサンプレーン™
アロン化成株式会社エラストマーAR
クラレプラスチックス株式会社アーネストン®
東ソー株式会社ミラクトラン

まとめ

熱可塑性エラストマーはゴムの様な弾性と加熱により液状に変化する性質により、加工性に優れた素材です。

ハード部位とソフト部位が共存する相構造を形成し、それぞれ導入されるモノマーによって多様な熱可塑性エラストマーが得られます。日用品から自動車、電気・電子部品までありとあらゆるところで使用されています。

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記事監修者

池端 久貴のアバター 池端 久貴 代表取締役

代表取締役 池端 久貴
化学メーカーで営業、半導体装置メーカーでマーケティングの経験を経て、総合研究大学院でマテリアルズ・インフォマティクスを研究。その後、統計科学博士を取得し、旭化成(株)でマテリアルズ・インフォマティクスや自然言語処理技術活用の推進に従事。2022年に(株)CrowdChemを創業。

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