はじめに ~連載について~
サステナビリティは、いまや材料開発の前提条件となりました。
性能と環境負荷を両立する「選ばれる素材」をどう設計するか。
本連載では、「サステナブル時代の『選ばれる素材』開発ロードマップ~CrowdChemの300万件データと現場を繋ぎ、次世代R&Dの『最適解』を導き出す~」を主テーマに、全10回にわたり、弊社の取り組みや知見も交えながらご紹介していきます。
| 全10回タイトル:サステナブル時代の「選ばれる素材」開発ロードマップ ~CrowdChemの300万件データと現場を繋ぎ、次世代R&Dの「最適解」を導き出す~ |
なお、本記事は、全10回の連載のうち、第1回の記事となります。
「300万件のグラフ構造化された知」と「グラフ学習AI」が、樹脂産業の停滞を打ち破る!
現在、世界の製造業、とりわけ自動車産業は、歴史上かつてない巨大なパラダイムシフトの渦中にあり、「100年に1度の変革期」という言葉は大げさなものではなく、日常会話のひとつになっています。
その変革の中心にあるのが、「2050年カーボンニュートラル(CN)※1」の到達、そして資源を循環させ続ける「サーキュラーエコノミー(CE)※2」の完全移行ではないでしょうか。
これまでのビジネスモデルは、地球の資源を掘り出し、製品を作り、消費し、最後は捨てるというリニア(線形)経済を前提に築かれてきました。
しかし、温室効果ガス(GHG)による深刻な気候変動は、このモデルが限界に達したことを告げています。主要国がCNを宣言し、平均気温上昇を1.5℃※3に抑える「脱炭素社会」への構築期にある今、自動車産業を支える化学・素材産業には製品設計の根底からの再定義が求められています。
※1 温室効果ガスの排出量から吸収・除去量を差し引いて正味ゼロにする概念
※2 製品設計から回収・再製造・再利用までを含む資源循環の経済システムを指す
※3 世界の平均気温の上昇を産業革命以前に比べて2℃より十分低く保ち、1.5℃に抑える努力をすること
「2031年の壁」と「Scope 3削減」の急務
自動車部品には多くの樹脂製品が使用されています。また、軽量化という観点から今後もその需要は増えていくと予測されます。その樹脂産業が直面している課題は、「環境への配慮」という言葉では対応できる状況ではありません。
なぜなら具体的な規制が目前に迫っているからです。特に注目すべきは、欧州で議論が進んでいるELV(End-of-Life Vehicles)規則案です。
2025年12月、EU理事会(閣僚理事会)と欧州議会は、自動車設計・廃車(ELV)管理における持続可能性要件に関する規則案に関し、暫定的な政治合意に達したと発表しました。
この規制案は、2031年を目処に、新車に使用するプラスチックの25%以上を再生材とし、そのうちの25%(プラスチック全体の6.25%に相当)をPCR材(Post-Consumer Recycled材)※4にすることを義務付ける方針が示されています(施行から6年で15%、施行から10年で25%)。
2031年に大きな壁が立ちはだかる形になりました。つまり、2026年時点において、あと5年しか準備期間がないということです。これは単なるリサイクル率の向上を示しているものではありません。
自動車メーカーや部品メーカーにとっては、自社の製造工程(Scope 1, 2※5)のみならず、原材料調達から廃棄・リサイクルに至るまでのScope3※6」全体のGHG排出量を劇的に低減しなければ、グローバル市場からの退場を余儀なくされることを意味しています。
化学産業は製造業におけるCO2排出量の約15%を占めており、その内訳を見れば、エチレンやプロピレンといった石油化学製品が半数近くを占めています(図参照)。
石油由来のナフサを原料とする従来の生産プロセスそのものを大規模に転換しない限り、CNの達成は不可能と言っても過言ではありません。
※4 消費後の廃プラスチックを回収・洗浄・選別・再ペレット化した材料
※5 Scope1:事業者が自ら直接排出する温室効果ガス Scope2:購入した電力・熱・蒸気などの使用に伴う間接的に排出する温室効果ガス
※6 自社の直接管理外で発生する間接排出量でサプライチェーン上流から下流までの15カテゴリに分類

開発現場の悲鳴 ~物性の低下と終わりの見えない「組み合わせの迷路」~
このような産業全体の大転換が求められる中、開発現場のエンジニアや研究者の皆様は、理想と現実の間で深刻なジレンマに直面しているのではないでしょうか。
「再生材比率を上げると、衝撃強度や耐熱性が著しく低下し、要求仕様を突破できない」
「PCR材は品質のバラツキが大きく、従来の配合ノウハウが通用しない」
「バイオマス素材への置き換えを検討したいが、加水分解性や成形性の悪化をどう補うべきか正解が見えない」
「そもそも色々検討したいが時間が足りない」
例えば、電気自動車のECUケースなどに多用される高機能エンプラ「PPS(ポリフェニレンスルフィド)樹脂」を例に挙げましょう。
PPSは優れた耐熱性と電気絶縁性を持ちますが、リサイクルを繰り返すと内部の強化繊維が折損し、衝撃強度がバージン材に比べて約7割も低下してしまう事例があります。
さらに、再生材率を高めるために添加するエラストマーや補強材、難燃剤などの組み合わせは無限に存在します。これらをひとつひとつ試作・評価する従来の「勘と経験」に頼った手法では、規制対応の期限までに最適解に辿り着くことは物理的に不可能です。
「時間は刻々と過ぎていく。しかし、開発リソースは足りず、成功への羅針盤も持っていない」
この閉塞感こそが、現在の日本の材料研究・開発が直面している最大の痛み、悲鳴ではないでしょうか。
データとAIを核とした次世代R&Dインフラ
この混迷を極める状況に対し、弊社が提供するのが、「データとAIを核とした次世代R&D基盤」です。弊社は単なるシミュレーションソフトウェアの提供者ではありません。研究開発のビジネススピードを劇的に引き上げるための、新たな羅針盤です。
その基盤を支えるのが、以下の3つの圧倒的な強みです。
① 300万件超の「グラフ構造化された知(データ)」
② 世界初、プロセスの繋がりを理解する「グラフ学習AI(特許取得済)」
③ 組織知への変換を加速する「LabDX」
これらの強みによって今現場で挙がっている様々な課題を解決することができます。詳細は第2回以降のコラムで解説していきますが、例えば以下のような話が現場で起こっていませんか?
「CO2排出量が少ない樹脂材料の開発を顧客から提案されたけど、どうやって企画開発していくべきか・・・」
近年、CO2排出量が少ない材料として再生材とバージン材の混合材料を用いた材料開発を事業として開始する事例が増えています。先に記述したPCR材の混合材も同様です。
例えば、特開2024-22209では、PCR材を含有しながらも、樹脂シートまたは樹脂容器への水平リサイクルをも可能とする優れた特性を発現する樹脂組成物、およびこの樹脂組成物を用いた樹脂シートまたは樹脂容器を提供することを提案しております。
このような開発時における材料リスト(バージン材、再生材、その他材料)の組み合わせによる合成及び評価検証による設計指針や課題抽出が必要です。材料の種類、比率、投入方法などその組み合わせは無数に存在します。
弊社の強みを活用することで、企画段階で開発指針や課題を早期に抽出することが可能になります。第2回以降のコラムでその謎を紐解きますのでぜひご期待ください。
今、選ばれるべきは「動静脈一体」のパートナー
ここまで自動車産業を中心にお話ししてきましたが、実は待ったなしの状況に置かれているのは自動車産業だけではありません。
2019年5月に策定された「プラスチック資源循環戦略」では、再生利用に関して2030年までにバイオマスプラスチックを約200万トン導入など3Rに関するマイルストーンが明確になっています(下図の右側)。
これからの時代に必要なのは、単一の部署や自社内だけで完結する取り組みではなく、原材料調達から最終製品の廃棄までを見通した「動静脈一体」の視点での最適化です。
弊社は、自動車産業を軸に培った樹脂材料のユースケースを保有しています。そして今、この知見を家電、包装材、接着剤、電池材料など、あらゆる樹脂関連産業へと水平展開しています。

データと人の力で、持続可能な未来への第一歩を
最後に、皆様に問いかけたいことがあります。
2050年、あなたの会社の製品はカーボンニュートラルの新基準を満たし、世界中で選ばれ続けているでしょうか。
環境規制を「コスト」や「障壁」として捉える時代は終わりました。これからは、膨大なデータと最新のAIという武器を使いこなし、誰よりも早く「持続可能性と高性能の最適解」に辿り着くことが、最大の競争優位性となります。
弊社は、お客様のニーズに合わせた社内DXの定着、そして最終的な製品化まで伴走型でサポートいたします。
まずは、現在抱えている「材料開発のボトルネック」をお聞かせください。300万件のデータの中から弊社が最適な「最短航路」を見つけ出します。
第2回コラム:マテリアルズ・インフォマティクス&プロセス・インフォマティクスの限界を突破する300万件のグラフ構造化データと組織知の構築(仮)
概要:新機能・高機能材料による市場確保が急務という状況の中で多くの企業がMI、PIを導入していますが、活用できていますでしょうか。
「自社データのみでは量が不足」、「AIの予測精度が上がらないという」そんな声を社内で聞いたことはありませんか。その声、ぜひきかせてください。解決への道をご紹介します。


