吸着剤は、不純物を除去したり有用物質を分離したりと汎用性が高く、工業用品から日用品まであらゆるところに使用されています。本記事では、吸着剤の用途、種類、反応、吸着メカニズム、注意点、製造メーカーまで網羅的な事例の紹介をします。
吸着剤とは
吸着剤は、液体や気体中に存在する特定の物質を吸着する材料です。吸着される側の物質は吸着質と呼ばれ、分子やイオンであることが多く、相対的に吸着剤よりサイズが小さくなります。
吸着剤は対象となる場に、不要あるいは回収したい吸着質と吸着することにより、その場から除去したり分離したりします。
吸着剤の用途
吸着剤は、吸着剤が持つ物質と吸着する性質を利用し、主に物質除去と分離に使用されます。
具体的な物質除去と分離の例として、脱色、脱臭、除湿、不純物の除去、特定の物質の精製、複数の物質の混合物から特定の物質の単離などが挙げられます。
こうした特徴を受けて、活性炭は上水道の浄水処理設備で菌や人体に有害な物質を除去したり、冷蔵庫に消臭剤として置いておいて臭いを吸収したり食品工業分野で味覚に悪影響を与える不純物を取り除いたりするなどの用途で使用されます。
吸着剤の種類
吸着剤は、吸着質との相互作用の切り口から大きく二つに分類されます。一つ目が物理吸着を利用した吸着剤、二つ目が化学吸着を利用した吸着剤です。
前者の物理吸着を利用した吸着剤には活性炭、ゼオライト、シリカゲルなどがあり、後者の化学吸着を利用した吸着剤には、酸化カルシウム、自己組織化単分子膜(SAM膜)や酸化亜鉛ナノ粒子などがあります。
特徴 | 吸着剤の例 | |
物理吸着 | 吸着剤と吸着質が物理的に吸着している状態で主に分子間力(ファンデルワールス力)の働きで吸着。化学吸着より弱く可逆的 | 活性炭、ゼオライト、シリカゲルなど |
化学吸着 | 吸着剤と吸着質が化学的に吸着している状態で主に水素結合、配位結合、共有結合の働きで吸着。物理吸着より強く不可逆的 | 酸化カルシウム、自己組織化単分子膜(SAM膜)、酸化亜鉛ナノ粒子 |
吸着剤の反応
吸着剤と吸着質における物理吸着の反応は、主に分子間力(ファンデルワールス力)が働いています。分子間力は化学的な結合である共有結合や水素結合と比較すると極めて小さい力です。
この吸着剤と吸着質の反応により、エントロピーが減少し、発熱反応を伴います。
一方、化学吸着剤は文字通り、吸着剤と吸着質が化学的に吸着します。この結合により、水素結合、配位結合、共有結合などがあります。
物理吸着をはじめ複数の作用の組み合わせを経て、化学吸着に至る吸着反応もあります。
吸着剤の吸着メカニズム
物理吸着の要因である分子間力(ファンデルワールス力)と化学吸着の要因である水素結合について、それぞれのメカニズムを解説します。
物理吸着における分子間力とは、分子内の電子の位置の偏りが要因となる静電的な相互作用を指します。
お互いが近寄ろうとするこの力は、分子の構造の中で部分的にプラスに局在化した電荷とマイナスに局在化した部分が引き合うことで働きます。吸着剤と吸着質が極端に近づきすぎると互いの静電反発により、それ以上近寄れない距離があります。
そのため、吸着剤と吸着質は分子間力と静電反発のバランスの取れたところで安定します。これが物理吸着のメカニズムです。
他方、化学吸着の要因である水素結合は、吸着剤の電荷を有する官能基、例えばヒドロキシ基、アミノ基、カルボキシル基などの酸素や窒素原子が関与します。これらの原子が分子内の共役系で電荷を帯びて、反対の電荷を有する吸着質を近寄せます。
吸着剤の注意点
吸着剤の使用における注意点を2点ご紹介します。
1点目は吸着限界です。例えば活性炭や活性アルミナ、シリカゲルのような物理吸着を利用した吸着剤には、これ以上吸着できない限界があります。なぜなら活性炭の表面は、多孔質構造を有し小さな穴が多量に開いているからです。
この穴に吸着質が取り込まれて保持されますが、多量の吸着質があると全ての穴がふさがり、吸着力が低下します。
2点目は再離脱です。一旦吸着した吸着質も高温になると吸着剤によって、再度吸着剤から吸着質が離れることもあります。物理吸着による作用で吸着している場合によく生じます。以上のことから、吸着剤の特性を理解して使用する必要があります。
吸着剤を製造しているメーカー
吸着剤を製造している主な国内メーカーは次のとおりです。様々な用途に、様々なグレードの製品が製造・販売されています。詳細は各社のウェブサイトをご参照下さい。
企業名 | 主な製品名 |
協和化学工業株式会社 | キョーワード® |
水澤化学工業株式会社 | ミズカナイト™ |
まとめ
吸着剤とは物質を吸着する材料です。吸着される側の物質を吸着質といい、吸着剤と吸着することにより相に不要な不純物を除去したり有用物質を分離したりします。
吸着剤は、脱色、脱臭、除湿、不純物の除去、特定の物質の精製、複数の物質の混合物から特定の物質の単離などに利用されます。吸着メカニズムには物理吸着と化学吸着があり、分子間力(ファンデルワールス力)と水素結合などが挙げられます。
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代表取締役 池端 久貴
化学メーカーで営業、半導体装置メーカーでマーケティングの経験を経て、総合研究大学院でマテリアルズ・インフォマティクスを研究。その後、統計科学博士を取得し、旭化成(株)でマテリアルズ・インフォマティクスや自然言語処理技術活用の推進に従事。2022年に(株)CrowdChemを創業。