フタロシアニンは、4つのイソインドリンユニットから成る環状化合物です。遷移金属と結合し鮮やかに発色することから、主に顔料として利用されています。今回はフタロシアニンについて特徴、物性、用途、構造、反応メカニズムまでについての紹介を通し、フタロシアニンについての理解を深めます。
フタロシアニンとは
フタロシアニンとは、4つのイソインドリンユニットからなる環状化合物です。1907年にBraunとThemiacにより偶然発見され、約20年後に銅(Cu)や鉄(Fe)と結合した化学構造が(C8H4N24)Cuもしくは(C8H4N24)Feであることが同定されました。
天然には存在せず、一般に市場に出回っている金属フタロシアニンとは、銅と結合した銅フタロシアニンが大部分です。事実上、フタロシアニンと言えば銅フタロシアニン(以下、フタロシアニン)を指します。
フタロシアニンの特徴
フタロシアニンは、π電子系の共役二重結合を有する化学構造から熱や光に強く、可視光の吸光能力が際立っている特徴によって鮮やかな青色を呈します。
中心にある4つの窒素原子で囲まれたスポットには銅以外にも鉄、コバルト、亜鉛などの遷移金属も配位することが可能で、それぞれ異なった色に発色します(鉄(深紫、緑)、コバルト(紫)、亜鉛(紫))。
フタロシアニンの物性
フタロシアニンは強い青色の固体であり、実用的には粉末状で使用されています。水や有機溶剤には溶けませんが、酸には塩となって水に溶解します。以下に基本的な物性値を示します。
物性 | 物性値 |
融点 | 480 °C(101.3 kPa) |
沸点 | 590°C |
比重(密度) | 1.61 – 1.63 |
水溶解性 | 4 – 9 µg/L @(23 °C) |
フタロシアニンの用途
フタロシアニンはその鮮やかな発色から顔料としての用途が大部分です。その他、近年になって電子材料や化粧品、触媒への用途展開も進んでいます。
フタロシアニンの製法
フタロシアニンの工業的製法は、主に2つあります。
1つ目はフタロジニトリル法、もう1つは無水フタル酸-尿素法です。
フタロジニトリル法はトリクロルベンゼンを溶媒としてフタロニトリルを金属銅(あるいは塩化第一銅) 触媒の存在下に反応させる方法です。
一方、無水フタル酸-尿素法は、無水フタル酸と尿素を銅と触媒の存在下で反応させる方法です。
フタロシアニンの構造
フタロシアニンの化学構造は、4つのイソインドリンユニットから成る環状化合物です。
ポルフィリンに類似した構造を持ち、中心部分の4つの窒素原子(N)に囲まれたスポットに遷移金属をはじめとした様々な元素と錯体を形成し、鮮やかに発色します。
フタロシアニンの発色メカニズム
フタロシアニンと光との反応による発色メカニズムについて解説します。
フタロシアニンは、π電子系の共役二重結合構造を形成し、この共役系が発色団となります。発色団は、ドナー性の強い官能基とアクセプター性の強い官能基から構成されている場合に発現します。
フタロシアニンは、Hückel の芳香族性に叶った比較的安定な環状構造物であり、共役系が安定になることから強い発色が認められるのです。
フタロシアニンを製造しているメーカー
フタロシアニンを製造している主な国内メーカーは次のとおりです。様々な用途で、様々なグレードの製品が製造・販売されています。詳細は各社のウェブサイトをご参照下さい。
企業名 | 主な製品名 |
大日精化工業株式会社 | クロモファイン |
トーヨーカラー株式会社 | リオノールブルー |
住化カラー株式会社 | ポルックスシリーズ |
まとめ
フタロシアニンは4つのイソインドリンユニットから成る環状化合物です。π電子系の共役二重結合を有する化学構造から可視光の吸光能力が際立っており鮮やかな青色を呈します。
フタロシアニンはその強い可視光の吸光性から顔料としての用途が大部分です。その他、電子材料や化粧品、触媒にも使用されています。
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代表取締役 池端 久貴
化学メーカーで営業、半導体装置メーカーでマーケティングの経験を経て、総合研究大学院でマテリアルズ・インフォマティクスを研究。その後、統計科学博士を取得し、旭化成(株)でマテリアルズ・インフォマティクスや自然言語処理技術活用の推進に従事。2022年に(株)CrowdChemを創業。