本記事ではイソシアネートについて解説します。イソシアネートは官能基として−N=C=O基(イソシアネート基)を有する分子の総称です。今回は、イソシアネートの物性、用途、構造、製造法、反応メカニズム、メーカーについて紹介します。
イソシアネートとは
イソシアネートとは、分子の中に−N=C=O基を持つ化合物の総称です。
NとOに挟まれた炭素(C)がアルコール類のヒドロキシ基(-OH基)と結合することで、ポリウレタンになります。イソシアネートからポリウレタンを合成する方法を最初に発見したのは、1849年フランスの化学者A. Wurtzです。
なお、イソシアネートは自然界には存在しません。
参照元:日本の高分子化学技術士 補訂版” 高分子学会 (2005)
イソシアネートの物性
ウレタン樹脂原料は、芳香族系と脂肪族系に大別されます。
代表的な芳香族系のイソシアネートとしてTDI(トルエンジイソシアネート)とMDI(ジフェニルメタンジイソシアネート)の物性について表にまとめました。
TDIは、MDIと比較すると融点、沸点が低く、人体への毒性が強い特徴があります。近年、この毒性を避けてMDIに置き換える動きがあります。
また、脂肪族系のイソシアネートとして、HMDI(ヘキサメチレンジイソシアネート)があります(物性は表参照)。HMDIを使用したウレタン樹脂は、TDIやMDIを使用したウレタン樹脂より耐候性に優れるという長所がありますが、比較的イソシアネート基の反応性が低いため、やや作業性が悪い欠点があります。
TDI | MDI | HMDI | |
物理的状態、形状、色 | 無色又は淡黄色の結晶~液体 | 白色~淡黄色の固体 | 無色液体 |
臭い | 刺激臭 | 無臭 | 刺激臭 |
融点・凝固点 | 11-14℃ | 37℃ | -67℃ |
沸点、初留点及び沸騰範囲 | 120℃ | 314℃ | 213℃ |
引火点 | 127℃ | 196℃ | 130℃ |
蒸気密度(空気 = 1) | 6.00 (計算値) | 8.6 | 情報なし |
比重 | 1.22 (25℃/15℃) | 1.2 | 1.05 |
自然発火温度 | 620℃ | 240℃ | 454℃ |
厚生労働省 職場のあんぜんサイト:MDI(メチレンビス(4,1-フェニレン)=ジイソシアネート (別名:4,4′-MDI))
イソシアネートの用途
イソシアネートは、ポリウレタンの原料としての用途が有名ですが、他にも接着剤の硬化剤や塗料、柔軟剤や芳香剤などの香りを閉じ込めるマイクロカプセルとしても使用されています。
イソシアネートの構造
代表的なイソシアネートとしてTDI(トリレンジイソシアネート)とMDI(ジフェニルメタンジイソシアネート)、HMDI(ヘキサメチレンジイソシアネート)について化学構造を図に示しました。
TDIは、1-メチルベンゼン骨格、MDIは、ジフェニルメタン骨格に2つのイソシアネートを有します。
TDI:トリレジイソシアネート(1,3-Diisocyanatomethylbenzene)
MDI:ジフェニルメタンジイソシアネート(Diphenylmethane 4,4′-diisocyanate)
HMDI:ヘキサメチレンジイソシアネート(1,6-Diisocyanatohexane)
イソシアネートの製造法
イソシアネートは、主にホスゲン法で製造されています。ホスゲン法とは、アミンにホスゲンを反応させて合成する方法です。
例えば、トルエンジイソシアネートは、2,4-トルエンジアミンとホスゲンを液相で溶剤溶液の存在下で反応させます(下図)。
なお、ホスゲンは猛毒のため、通常製造プロセスには強固なホスゲン回収プロセスが備えられています。
TDI(トルエンジイソシアネート)の合成 |
イソシアネートの反応メカニズム
NとOに挟まれた炭素が両方の原子によって吸い寄せられていることから、この炭素原子(C)は、他の分子から求核反応されやすい特徴があります。
出典:日本接着学会誌Vol.54 No.2 2018 「イソシアネートモノマーと接着剤・塗料分野への応用」 |
下図はイソシアネートとヒドロキシ基(-OH基)を有するアルコール類が反応してウレタン結合が生成する反応スキームです。ヒドロキシ基(-OH基)の酸素原子(O)がイソシアネート(炭素原子(C))に対し、求核反応しています。
出典:)J. W. Baker and J. B. Holdworth, J. Chem. Soc.,1947, 713 |
イソシアネートを製造しているメーカー
イソシアネートを製造している主な国内メーカーは次のとおりです。様々な用途に、様々なグレードの製品が製造・販売されています。詳細は各社のウェブサイトをご参照下さい。
企業名 | 主な製品名 |
クミアイ化学工業株式会社 | イハラキュアミン、ハートデュア118 |
三井化学株式会社 | タケネート® |
まとめ
イソシアネートは分子の中に−N=C=O基(イソシアネート基)を有している化学物質の総称です。間の炭素原子(C)は、NとOに挟まれることで他の分子から求核反応されやすくなります。
代表的なイソシアネートに、TDI(トルエンジイソシアネート)とMDI(ジフェニルメタンジイソシアネート)があります。イソシアネートは、ポリウレタンの原料、接着剤の硬化剤、塗料、柔軟剤や芳香剤などの香りを閉じ込めるマイクロカプセルとして使用されています。
NとOに挿まれた炭素原子(C)は、他の分子から求核反応されやすい特徴があります。
株式会社CrowdChemが公開した「CrowdChem Data Platform(クラウドケム データ プラットフォーム)」では、”イソシアネートにカテゴライズされる製品のカタログ情報” や “その製品と紐づいた特許情報” を含む、化学分野に関する知見や知識を提供しています。
一部は無料でご利用いただけますのでぜひご活用ください。
「CrowdChem Data Platform(クラウドケム データ プラットフォーム)」の無料トライアルはこちらから。株式会社Crowd Chemについて詳しくはこちらから。
代表取締役 池端 久貴
化学メーカーで営業、半導体装置メーカーでマーケティングの経験を経て、総合研究大学院でマテリアルズ・インフォマティクスを研究。その後、統計科学博士を取得し、旭化成(株)でマテリアルズ・インフォマティクスや自然言語処理技術活用の推進に従事。2022年に(株)CrowdChemを創業。