塗料が剝がれずに綺麗に塗れていたり、樹脂にコーティングがしっかり処理されていたりする時はたいてい、シランカップリング剤という化学物質が活躍しています。本記事では、シランカップリング剤の用途、構造、反応、物性、取り扱いなどを幅広く解説します。
シランカップリング剤とは
シランカップリング剤とは有機材料と無機材料を結びつけたり、有機材料、無機材料の表面を改質して機能を持たせたりする化学物質です。塗料やガラス表面、フィルムなど、日常の幅広い用途で使用されていますがあまり表には出てこない、縁の下の力持ち的な物質です。
シランカップリング剤の用途
シランカップリング剤の用途は大きく4つあります。プラスチックやゴム製品の材料となる複合化材料中の添加剤の固定、ガラスや銅板のような無機基材とコーティング剤の密着化、フィラーのような添加剤の表面改質、シリカやクレーのような無機材料の表面改質、です。※フィラーについての解説記事はこちら。
複合化材料中の添加剤の固定
複合化材料に添加剤を混合する際、添加剤が複合化材料にしっかり固定化するようにシランカップリング剤が使われます。
たとえば、プラスチック材料にフィラーを混合する場合、シランカップリング分子はフィラー、プラスチック両方に結合し、一体化させます。
無機基材とコーティング剤の密着化
無機基材表面に樹脂などをコーティングする際、シランカップリング剤はコーティング樹脂と無機基材がしっかり接着するように働きます。
たとえば、金属表面に塗料が塗布する時、シランカップリング剤は塗料のバインダーと金属表面の間で両者を結びつけ、剥がれにくくします。
無機基材の表面改質
無機基材の表面にシランカップリング剤が作用することで、無機基材そのものの表面の改質を行います。たとえば、ガラス表面にシランカップリング剤を処理することで、ガラスを強化したり、表面に撥水加工を施したり、耐熱性を付与したりできます。
添加剤の表面改質
複合化材料に添加剤を混合する際、添加剤自体の表面をシランカップリング剤で処理すると複合化材料となじみがよくなります。たとえば、樹脂にフィラーを混合する際、フィラー自体の表面をシランカップリング剤で処理し、樹脂と一体化させるのです。
シランカップリング剤の構造
シランカップリング剤の構造は、ひとつのケイ素原子に有機材料と化学反応する官能基と無機材料と化学反応する官能基が結合した分子です。
有機材料と無機材料を結びつける働きをすることから、複合化材料の強度を高めたり、性質の異なる表面同士を接着したり、樹脂の表面を改質したりすることができます。
有機材料に結合する反応基〜{Si(ケイ素)}〜無機材料に結合する反応基 |
シランカップリング剤の分子中、有機材料と化学反応する官能基はビニル基、エポキシ基、アミノ基、メタクリル基などがあります。また、無機材料と化学反応する官能基は、メトキシ基やエトキシ基です。
シランカップリング剤の反応
シランカップリング剤は水素結合または共有結合で有機、無機物質と結合します。水素結合では静電的な力でゆるやかに結合し、共有結合では「加水分解反応」や「縮合反応」を伴い強固に結合します。
シランカップリング剤と無機物表面との反応は、まずシランカップリング剤分子のシラノール基(Si-OH)と無機表面の水酸基(-OH)が弱い水素結合で結びつきます。
さらに、熱や触媒を作用させることでより強固な共有結合を促すことも可能です。また、シランカップリング剤分子のシラノール基同士が縮合しシロキサンオリゴマーを形成する反応も生じることがあります。
他方、樹脂のような有機物表面とシランカップリング剤を反応させる時は、有機物をグラフト化して反応活性点を導入したり、シランカップリング剤分子にアミノ基、エポキシ基、メルカプト基、不飽和炭化水素基などを導入したりして有機物との共有結合を促進させます。
シランカップリング剤の物性
代表的なシランカップリング剤(3-アミノプロピルトリエトキシシラン)の化学特性を下記の表にまとめました。一般に化学的に反応性に富み不安定です。
物理化学的特性 | 3-アミノプロピルトリエトキシシラン |
形状 | 液体 |
色 | — |
pH | — |
融点・凝固点 | -70℃: SIDS |
沸点、初留点及び沸騰範囲 | 119℃ |
燃焼又は爆発範囲 | — |
蒸気圧 | 0.02hPa(20 ℃) |
比重(相対密度) | 0.94 (4℃/20℃) |
溶解度 | 7.6X105 mg/l (25℃) |
シランカップリング剤の取扱い方法
貯蔵ないし取扱う作業場には洗眼器と安全シャワーを設置する、暴露を防止するため、装置の密閉化又は局所排気装置を設置する必要があります。人が取り扱う際には、適切な呼吸器、手、眼、皮膚及び身体を守る保護具を装着しなければいけません。
シランカップリング剤の法規制情報
シランカップリング剤の一種であるtris(2-methoxyethoxy)vinylsilaneは、欧州化学品庁で生殖毒性(Reproduction toxicity)があると指摘され、厳しい規制がかかる可能性があります。取り扱いには、長期間・多量に人体に暴露しないよう細心の注意が必要です。
シランカップリング剤を製造しているメーカー
シランカップリング剤を製造している主な国内メーカーは下記です。様々な用途に、様々なグレードの製品が製造・販売されています。詳細は各社のウェブサイトをご参照下さい。
企業名 | 主な製品カテゴリー |
信越化学工業株式会社 | ビニル系、エポキシ系、スチリル系、メタクリル系、アクリル系など |
旭化成 ワッカーシリコーン株式会社 | アルコキシシラン、ビニル系、ビニル系、エポキシ系など |
モメンティブ・パフォーマンス・マテリアルズ・ジャパン合同会社 | シランモノマー、ビニルシラン、エポキシシランなど |
まとめ
シランカップリング剤は、プラスチックやゴム材料と添加剤との馴染みをよくしたり、添加剤や材料自体の表面を改質したりする働きをする化学物質です。一部のシランカップリング剤は、生殖毒性(Reproduction toxicity)があると指摘されていますので、取り扱いには、人に多量に触れないよう細心の注意が必要です。
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代表取締役 池端 久貴
化学メーカーで営業、半導体装置メーカーでマーケティングの経験を経て、総合研究大学院でマテリアルズ・インフォマティクスを研究。その後、統計科学博士を取得し、旭化成(株)でマテリアルズ・インフォマティクスや自然言語処理技術活用の推進に従事。2022年に(株)CrowdChemを創業。