マテリアルズ・インフォマティクス(MI)とは、材料開発において機械学習やデータ分析などの情報科学(インフォマティクス)を活用することを指します。研究者の経験や知識に頼った従来の開発方法と比べ、時間とコストを大幅に削減できる手法として期待されています。
ただ、MIに対して大きな期待が寄せられることも少なくありません。この記事では、MIのよくある誤解と正しい知識を解説した上で、MIを活用する際の研究者の役割もご説明していきます。
MIのアプローチ
材料開発分野では、従来の進め方にとらわれない新たな研究アプローチが提案されています。中でも機械学習を用いる「データ駆動型材料開発」に注目が集まっており、MIもこのアプローチに分類されます。
MIでは、過去の実験データやシミュレーションデータを機械学習などで分析することにより、最適パラメータの推定や合成方法の検討、物性の予測を行います。機械学習が分析した情報をもとに、研究者は合成や物性の測定、解析を行います。
MIに関するよくある誤解
そんな便利なMIですが、実は誤解されやすい部分もあります。MIに関するよくある誤解として、次の2つが挙げられます。
- MIは未知の材料や反応条件を予測できる
- MIには大量のデータがあればよい
以下では、それぞれの誤解について詳しく解説します。
誤解1:MIは未知の材料の物性や反応を予測できる
MIは材料の物性を予測する強力なツールですが、未知の材料の物性や化学反応を予測することはできません。なぜなら、MIには予測が得意な領域と不得意な領域があるからです。
たとえば、材料開発を大きく以下2つに分類した場合、MIが得意とする領域はどちらでしょうか。
- 既知の材料の反応条件などを再検討し、より高性能な類似材料を開発する
- 既知の材料とはまったく異なる未知の材料を発見する
MIが得意とするのは前者であり、過去の実験データなどを分析することで材料の物性を予測できます。一方、後者のようなデータが揃っていない未知の材料については、正確な予測をすることは困難です。
このように、MIは実験データから離れた領域の解析・予測が行いにくいという特徴があります。そのため、MIの予測だけに頼るのではなく、研究者がMIをうまく活用しながら材料開発を進めていく必要があります。
なお、MIを活用する際の研究者の役割については、次の章で詳しく解説します。
誤解2:MIには大量のデータがあればよい
MIを活用して正確な予測を行うには、多くの実験データや論文などが必要ですが、大量のデータがあればよいわけではありません。データ量が多くてもMIに利活用可能な形式でないと、正確に予測することは困難です。
たとえば、実験データが紙ベースで保存されている場合、MIで解析可能な形式に統一する必要があるでしょう。
また、実験データに記録されている項目が属人化されていてバラバラの場合も、利活用可能なデータとはいえません。データを活用するには、実験の手順や条件などの記録項目を標準化しておく必要があります。
さらに、失敗した実験のデータもMIにとっては重要な学習データになるため、成功・失敗にかかわらず保存しておくことが大切です。
MIを活用する際の研究者の役割
このような誤解もあるMIですが、研究者がどのようにMIを活用すれば、材料開発の効率化につながるのでしょうか。MIを活用する際の研究者の役割として、以下が挙げられます。
- モデルのパラメータ設定と評価
- 予測の解釈と実験計画の立案
モデルのパラメータ設定と評価
MIを活用するにあたり、収集した実験データやシミュレーションデータをもとに、新しい材料の物性を予測する機械学習モデルを構築します。その際、モデルに追加する適切なデータセットの選定、材料組成や加工プロセス(加熱時の温度や圧力)といったパラメータの設定は研究者が行う必要があります。
データセットやパラメータの最適化により、新しい材料の特性を高精度に予測することが可能になります。
また、構築したモデルが適切かどうかを評価し、必要に応じてフィードバックを行いモデルを改良していくことも研究者の役割です。
予測の解釈と実験計画の立案
MIの予測だけに頼るのではなく、研究者による解釈や実験計画の立案を組み合わせることは、材料開発プロセスの大幅な効率化のためには必須です。
具体的には、MIが新しい材料の特性を予測した際、研究者はその予測がどのような意味を持つのかを解釈する必要があります。
また、予測を解釈した上で、次に行うべき実験や反応条件を決定することも研究者の役割です。
MI活用に役立つ情報を収集・活用する「CrowdChem」
株式会社CrowdChemが提供する「CrowdChem Data Platform(クラウドケム データ プラットフォーム)」は、国内外の特許や製品カタログなどの情報を独自に収集・集約したプラットフォームであり、多くのデータを収録しています。
製品・物質・特許のデータベースを検索・閲覧できるほか、特許分析やAI製品探索など、AIを用いた分析・探索機能も提供しており、一部機能は無料でご利用可能です。
また、CrowdChem Data Platformを提供する株式会社CrowdChemの特徴として、以下2つが挙げられます。
- 特許からの幅広いデータ収集
- 異なる分野のデータ収集と統合可能なフォーマット
以下では、それぞれの特徴を詳しくご紹介します。
CrowdChemの特徴1:特許からの幅広いデータ収集
CrowdChemは膨大な特許データを収集。これらの特許データを機械学習モデルに組み込むことで、自社の実験データの欠如を補えるほか、実験データから離れている領域での予測精度の低下を解消します。
これにより、より正確で信頼性の高いモデルをご利用いただけます。
CrowdChemの特徴2:異なる分野のデータ収集と統合可能なフォーマット
異なる分野のデータを独自開発のデータフォーマットに従って収集しており、これらのデータをまとめて学習させた機械学習モデルを構築しています。
統合可能なデータフォーマットを利用することで、複数の分野にわたるデータを活用した多角的な機械学習モデルが実現します。
CrowdChemはMI人材によるサポートも実施
株式会社CrowdChemは、CrowdChem Data PlatformのAI製品探索では行えない製品の置き換えや、実験プロセスに関する解析を「カスタマイズサービス」で承っております。
また、社内に十分なデータが蓄積されていないなどの課題がある場合は、ご希望のデータ収集を行い、MIに精通したデータサイエンティストが解析を行うことも可能です。
CrowdChemのMI人材が貴社の課題解決に向けたサポートを行いますので、MIの導入をご検討の際はぜひご相談ください。