ABS樹脂とは、アクリロニトリル、ブタジエン、スチレンを組み合わせた樹脂を指します。耐候性や機械的強度、デザイン性に優れ、加工もしやすいことから家電や自動車部品などに使用されています。ポリブタジエンとともに、アクリロニトリル、スチレンを付加重合する製法が一般的です。本記事ではABS樹脂の歴史、用途、特徴、製法について解説します。
ABS樹脂とは何か?
ABS樹脂とは、アクリロニトリル、ブタジエン、スチレンから構成されるプラスチック樹脂を指します。アクリロニトリルの頭文字であるA、ブタジエンのB、スチレンのSをとってABS樹脂と名付けられました。
ABS樹脂はその高い性能から、エンジニアプラスチックに分類されています。ABS樹脂は、もともとPS樹脂(ポリスチレン樹脂)のデメリットである耐候性と耐衝撃性を改善するために開発されました。
さまざまな検討の結果、ポリアクリロニトリルのもつ耐熱性、機械的強度、耐油性、ポリブタジエンの持つゴム特性、耐衝撃性、ポリスチレンの持つ光沢性、加工性、安定性を兼ね備えた樹脂として日常の多くの製品に使用されています。
ABS樹脂の歴史
ABS樹脂は、1947年に米国のUSラバー社によって開発されたのが始まりです。その後、同じ米国のBorg Warner社、USラバー社、UCC社がクラフト重合法によるABS樹脂の大量生産に成功し、今日のABS樹脂製造の基礎となっています。
参照:成型加工 第13巻 第12号 2001 ABS樹脂
日本では、1962年頃に米国から技術導入がなされ、6割のシェアを独占しているテクノUMG株式会社を始め、東レ株式会社など数社が、現在も製造販売を継続しています。
ABS樹脂の用途について
ABS樹脂は、日常にある多くの製品に使用されています。主な用途を表にまとめました。
分野 | 用途 |
家電製品 | テレビ、洗濯機、冷蔵庫、扇風機、掃除機、ドライヤー、エアコン |
自動車 | フロントグリル、ラジエーターグリル、ランプカバー、コンソールボックス、ドアパネル、フロントカバーなど |
家庭用電子機器 | 固定電話、プリンター、パソコン、ファックスなど |
家具 | タンス、食卓、建材、文房具、子供用玩具、スーツケース、楽器、雑貨など |
ABS樹脂の特徴
ABS樹脂は、ポリアクリロニトリル、ポリブタジエン、ポリスチレン樹脂の特長を兼ね備えています。具体的には、耐衝撃性、耐熱性、さらには光沢性や光沢性に起因するデザイン性です。複数のモノマーから成るなるABS樹脂は、それぞれのモノマーの良い長所を兼ね備えた極めてバランスのよい樹脂です。ただ、強酸や強アルカリ、鉱物油などに長時間接触すると劣化が進行し、侵食されやすいという短所があります。
ABS樹脂の製造方法
ABS樹脂は、アクリロニトリル、ブタジエン、スチレンのモノマーを組み合わせて製造されます。具体的には、ポリブタジエン(PBD)とともに、アクリロニトリル、スチレンを付加重合するグラフト重合法です。グラフト重合法のグラフトとは、継ぎ目を意味し、PBDの主鎖にアクリロニトリル、スチレンが重合付加した構造を持ちます。
ABS樹脂の乳化重合法によるグラフト重合の流れを示します。
【乳化重合法によるABS樹脂の製造方法】
AS樹脂→↓ PBD乳化重合→乳化グラフト重合→凝固→水洗・乾燥→加工→ABS樹脂 |
この製法に見られるように、複数のモノマーを物理的混合や化学的結合によって単体では成しえない性能を発現させることを、「ポリマーアロイ化」と呼びます。ポリマーアロイとは、それぞれ単独でのポリマーの特長を残したまま総合的に高性能を獲得する手法として、主にプラスチック樹脂で利用されています。
ポリマーアロイについて詳しくはこちら
ABS樹脂の市場予想
米国の調査会社KD Market Insightsは、2022年から2032年にかけてのABS樹脂の年平均成長率(CAGR)は、約5.4%と予測しています。この予想の根拠としては、ABS樹脂の主な用途である電気自動車部品の需要拡大が考えられます。
参照:KD Market Insights
まとめ
本記事では、ABS樹脂について解説しました。ABS樹脂とはアクリロニトリル、ブタジエン、スチレンから構成されるプラスチック樹脂を指します。ABS樹脂は1957年に米国で開発された後、日本にも技術導入が行われており、現在も国内で数社が製造販売中です。
ポリアクリル、ポリブタジエン、ポリスチレンの長所を兼ね備えたABS樹脂は、高性能エンジニアプラスチックに分類されます。電化製品から自動車部品まで幅広い用途で使用できるABS樹脂は、今後も成長が予想されています。
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代表取締役 池端 久貴
化学メーカーで営業、半導体装置メーカーでマーケティングの経験を経て、総合研究大学院でマテリアルズ・インフォマティクスを研究。その後、統計科学博士を取得し、旭化成(株)でマテリアルズ・インフォマティクスや自然言語処理技術活用の推進に従事。2022年に(株)CrowdChemを創業。