本記事では、植物細胞の細胞壁や植物繊維中に多く含有するセルロースを解説します。セルロースの構造、セルロースから合成されるセルロース誘導体、そしてセルロース応用の最新技術であるセルロースナノファイバーまでの網羅的な情報がわかります。
セルロースとは
セルロースとは植物細胞の細胞壁や植物繊維中に多く含有する天然高分子です。コピー用紙、ダンボール、新聞紙などの情報媒体、障子紙やトイレットペーパー、紙タオル、ティッシュペーパー、包装紙などは、木材から抽出された抽出されたセルロースが主成分です。またセルロースに化学処理を施したセルロース誘導体は、化学繊維やセロハンフィルム、火薬、接着剤や映画フィルムとして日常に広く使用されています。
セルロースの構造
セルロースは、分子式 (C6H10O5)n で表され「D-グルコピラノースが β(1→4)グリコシド結合 したホモ多糖類」と定義されています(参考文献1)。六員環に存在するヒドロキシ基(-OH)やヒドロキシメチル基(-CH2-OH)が活性部位となって様々な置換基と反応し、セルロース誘導体になります。
参考文献1:磯貝 明,セルロースの科学、朝倉書店、2003、p. 2
セルロース誘導体
セルロース骨格に含まれるヒドロキシ基(-OH)やヒドロキシメチル基(-CH2-OH)は様々な置換基と反応し、セルロースエーテル誘導体もしくは、セルロースエステル誘導体になります。
セルロースエーテル誘導体
セルロースエーテル誘導体の代表的なものとしてメチルセルロース、エチルセルロース、カルボキシメチルセルロース、カルボキシエチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース、ベンジルセルロース、トリチルセルロース、シアノエチルセルロース、アミノエチルセルロースなどがあります。たとえばメチルセルロースは、ヒドロキシ基(-OH)あるいはヒドロキシメチル基(-CH2-OH)の-OHとメチル基(-CH3)を反応させて得られる構造で、食品添加物、増粘剤、ゲル化剤、気泡安定化剤などに使用されています。
またカルボキシメチルセルロース(CMCと呼ばれる)は、ヒドロキシ基(-OH)あるいはヒドロキシメチル基(-CH2-OH)の-OHとアセチル基 (-OCCH3)が反応して得られる構造で、アイスクリームなどの増粘剤、乳化安定剤、飼料添加物、化粧品などに使用されています。
セルロースエステル誘導体
セルロースエステル誘導体の代表的なものとしてアセチルセルロース、ジアセチルセルロース、トリアセチルセルロース、ギ酸セルロース、プロピオン酸セルロース、酪酸セルロース、安息香酸セルロース、フタル酸セルロース、トシルセルロース、ニトロセルロース、硫酸セルロース、リン酸セルロースなどがあります。たとえばアセチルセルロースは、ヒドロキシ基(-OH)あるいはヒドロキシメチル基(-CH2-OH)と酢酸(CH3COOH)がエステル反応した構造で、綿火薬、セルロイドに利用されています。
またニトロセルロースは、ヒドロキシ基(-OH)あるいはヒドロキシメチル基(-CH2-OH)と硝酸(HNO3)が反応して得られる構造で、爆薬、印刷インキ、プラスチックフィルムなどに使用されています。
セルロースナノファイバー
最近のセルロースの応用例としてセルロースナノファイバーがあります。セルロースナノファイバーとは、木材などから抽出したセルロース繊維をナノレベル(1μの数百分の1)に微細化(ナノ化)した素材です(環境省ナノセールスプロモーション)。鋼鉄に比べ20%の軽さで5倍の強度があることから様々な用途への応用が検討されています。主な用途は、自動車部品、家電製品、住宅建材、内装材です。最近の環境意識の高まりから高機能バイオマス原料として今後の用途展開が期待されています。
セルロース誘導体を製造しているメーカー
セルロースは天然物のため今回はセルロースを原料にして製造されるセルロース誘導体を製造している主な国内メーカーを紹介します。様々な用途に、様々なグレードの製品が製造・販売されていますので、詳細は各社のウェブサイトをご参照下さい。
企業名 | 主な製品名 |
信越化学工業株式会社 | METOLOSE®(メチルセルロース) |
第一工業製薬株式会社 | セロゲン®(カルボキシメチルセルロース) |
株式会社ダイセル | 酢酸セルロース |
日本製紙株式会社 | cellenpia(セルロースナノファイバー) |
まとめ
セルロースとは分子式 (C6H10O5)n で表されるホモ多糖類です。植物中に多く含有し、木材などから抽出して紙製品に使用されます。またセルロースを原料に化学処理を施すことで合成される誘導体は、化学繊維やセロハンフィルム、接着剤など日常に広く使用されています。さらにセルロースがナノまで細分化されたセルロースナノファイバーは最新の技術として今後が期待されています。
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代表取締役 池端 久貴
化学メーカーで営業、半導体装置メーカーでマーケティングの経験を経て、総合研究大学院でマテリアルズ・インフォマティクスを研究。その後、統計科学博士を取得し、旭化成(株)でマテリアルズ・インフォマティクスや自然言語処理技術活用の推進に従事。2022年に(株)CrowdChemを創業。