連載第5回:「環境に良い」だけでは選ばれない ~バイオ由来材料候補をデータで絞り込む材料スクリーニング~

目次

はじめに ~連載について~

サステナビリティは、いまや材料開発の前提条件となりました。
性能と環境負荷を両立する「選ばれる素材」をどう設計するか。

本連載では、「サステナブル時代の『選ばれる素材』開発ロードマップ~CrowdChemの300万件データと現場を繋ぎ、次世代R&Dの『最適解』を導き出す~」を主テーマに、全10回にわたり、弊社の取り組みや知見も交えながらご紹介していきます。

全10回タイトル:サステナブル時代の「選ばれる素材」開発ロードマップ
~CrowdChemの300万件データと現場を繋ぎ、次世代R&Dの「最適解」を導き出す~

なお、本記事は、全10回の連載のうち、第5回の記事となります。

バイオ由来材料を「選ばれる素材」に変えるには

現在、世界の製造業は、2050年カーボンニュートラルとサーキュラーエコノミーへの移行という、大きなパラダイムシフトの中にあります。特にカーボンニュートラルの観点では、石油由来材料への依存を見直し、再生可能な資源をいかに有効活用するかが重要な課題になっています。

このような状況の中で、石油由来材料の有力な代替として注目されているのが、植物由来のバイオマス資源であるセルロースです。特にセルロースナノファイバー(CNF)は、軽量でありながら高い強度を持ち、低線膨張性にも優れることから、樹脂の補強材として高いポテンシャルを持つ材料として期待されています。近年では、NCV(Nano Cellulose Vehicle)プロジェクトのように、大学・研究機関・企業が連携し、原料から部材化までのサプライチェーンを一気通貫で構築する取り組みも進んでいます。

なぜ、CNF・セルロース繊維の実用化は難しいのか

一方で、CNFやセルロース繊維を実際の材料設計に取り込もうとすると、大きな課題があります。それが「混ざりにくさ」です。

セルロースは分子内に多くの水酸基を持つため、親水性が高い材料です。これに対して、分散媒体となるポリオレフィンなどの樹脂は疎水性です。この性質の違いにより、通常の混練ではセルロースが樹脂中で凝集しやすくなります。凝集したセルロースは、補強材として機能するどころか、成形体の欠陥や外観不良の原因となる可能性があります。

これまで、分散性を改善する方法として、セルロースの化学修飾や分散剤の活用が検討されてきました。しかし、これらはコスト増や製造工程の複雑化につながりやすく、量産化に向けた障壁となる場合があります。多くの開発現場では、分散性、物性、コストの背反をどのように解くかが課題になっているのではないでしょうか。

分散課題を乗り越える2工程プロセス

この課題に対する一つのアプローチとして、公開特許情報の一例である特開2024-085206では、セルロース繊維を樹脂中に分散させる2工程プロセスが提案されています。

この技術では、乾燥したセルロース繊維をそのまま樹脂に混ぜるのではなく、いったん水中で分散させ、水ペーストとして扱う点に特徴があります。

工程1は、水ペーストの形成です。セルロース繊維を水中で高速撹拌して分散液とし、ろ過によって含水率4〜80%の水ペーストを得ます。水を含んだ状態で繊維を保持することで、乾燥による繊維同士の水素結合、つまり再凝集を物理的に防ぎます。

工程2は、加熱混練による均一分散です。樹脂と水ペーストを混合し、100℃以上の温度条件下で混練します。この際、水を除去しながら混練することで、繊維を樹脂中に分散させます。水分の存在によって繊維同士の凝集を抑え、樹脂中に一本ずつ解き放つような分散状態を狙うプロセスです。

このように、CNFやセルロース繊維の実用化では、材料そのものの特性だけでなく、分散、混練、成形といったプロセス条件が最終物性に大きく影響します。つまり、PI(プロセスインフォマティクス)の視点は非常に重要です。

ただし、開発初期段階から、材料候補、配合比、表面処理、混練温度、成形条件をすべて同時に探索することは現実的ではありません。

まず必要になるのは、要求物性を満たす可能性のある材料系を絞り込むことです。そのうえで、配合比やプロセス条件を最適化していくことが、効率的な開発の進め方になります。

材料候補を、要求物性からスクリーニングする

では、実際にバイオ由来材料のスクリーニングを行う場合、どのようにデータを整理し、結果を読み解けばよいのでしょうか。

下図は、材料スクリーニングにおけるデータ整理のイメージです。主材料、フィラー、無機フィラー、添加剤などの入力情報を、混合、溶融混練、脱泡、圧縮成形、冷却・固化、アニールといった工程条件に紐づけ、最終的な評価サンプルと三点曲げ試験の結果までを一つの流れとして整理しています。

材料・配合・工程・評価結果をつなぐ共通フロー図

今回の解析では、シール・封止部材のように、強度と柔軟性の両立が求められる用途を想定しました。評価条件として、三点曲げ試験における強度30 MPa以上、柔軟性を示す破断歪4%以上、適正剛性として弾性率1,000〜2,000 MPaを設定し、候補材料を比較しました。

解析の結果、セルロース系繊維を含む材料系が有力候補の一つとして抽出されました。ただし、ここで重要なのは、特定の材料名そのものではなく、どの材料役割がどの物性に効いているかを確認することです。

たとえば、主材料には熱可塑性を持つバイオ由来樹脂、強化剤にはセルロース系繊維、改質剤には植物由来成分などが候補となります。これらを強度、柔軟性、適正剛性といった複数の評価軸で比較することで、用途に応じた材料系を効率的に絞り込むことができます。

社内実験データと外部知見を、同じ形式でMI/PI解析へ

材料スクリーニングを実際の開発に活かすためには、候補材料の名称や予測物性値を一覧化するだけでは不十分です。どの材料を、どの配合比で用い、どの工程条件で成形し、どの評価方法で測定したのかを、後から比較・再利用できる形で整理する必要があります。

このように、材料・配合・工程・評価結果を共通フローとして構造化することで、「セルロース系繊維を加えると弾性率は上がるが、破断歪はどう変化するのか」「同じ材料系でも、成形条件やアニール条件によって強度は変わるのか」といった比較がしやすくなります。

ここで重要なのは、材料の役割を個別に見るだけでは不十分だという点です。強化剤の量を増やせば剛性は上がりやすくなりますが、上げすぎると破断歪が低下する可能性があります。

主材料の選択は強度や成形性に影響する一方で、用途によっては柔軟性とのバランスが課題になります。

また、改質剤やポリマー構造は破断歪の向上に寄与する可能性がありますが、剛性との調整が必要です。

つまり、材料探索では「この材料が良い」という単独評価ではなく、どの因子が、どの物性に、どの方向で効くのかを整理することが重要です。

さらに、ある物性に有利な因子が、別の物性には不利に働く場合もあります。ここに、サステナブル材料開発の難しさがあります。

要因解析で、物性トレードオフを読み解く

材料・配合・工程・評価結果を共通フローとして整理すると、次に重要になるのは、どの因子が最終物性に大きく影響しているのかを読み解くことです。特に、曲げ弾性率、曲げ強度、曲げ破断歪のように複数の評価指標を同時に見る場合、ある物性を高める因子が、別の物性には不利に働くことがあります。

そこで活用できるのが、AIによる要因解析です。要因解析では、曲げ弾性率、曲げ強度、曲げ破断歪といった目的物性に対して、どの材料因子・配合因子・工程因子が影響しているかを可視化します。

要因分析図の一部抜粋と、トレードオフ型の因子一覧を組み合わせた図

右側の要因分析図は、LabDXの解析機能である「要因分析」をツリー構造で表した図の一部です。図では、材料、配合比、成形プロセス、評価物性がノードとして接続され、どの因子が最終的な評価物性値に影響しているかを確認できます。赤色が濃いノードほど、物性への影響が大きいことを示しています。

また、左側の因子一覧では、目的物性に影響する因子を、寄与度の大きい順にランキング形式で整理しています。これにより、開発者は「どの因子から優先的に調整すべきか」を判断しやすくなります。

たとえば、曲げ弾性率には繊維含有量や配向が効きやすい一方で、上げすぎると破断歪が低下する可能性があります。曲げ強度では界面状態や成形条件、曲げ破断歪ではポリマー構造や繊維種が重要になる場合があります。

このように、要因解析は単に良い材料を選ぶためだけでなく、剛性、強度、柔軟性のトレードオフを理解し、次に検討すべき材料設計の方向性を決めるために活用できます。候補材料を絞り込んだ後には、配合比、混練温度、成形条件、繊維分散、表面処理などのプロセス条件を最適化することで、より実用に近い材料設計へ進めることができます。

バイオ由来材料開発を、R&Dで進めるために

サステナブル材料は、環境価値だけで採用される時代ではありません。強度、柔軟性、剛性、成形性、コストを含めた総合的な性能が求められます。だからこそ、材料候補をデータに基づいて比較し、複数物性のバランスを可視化することが重要です。

LabDXは、バイオ由来材料の可能性を単なる期待で終わらせず、実用化に向けた材料設計の道筋として整理します。特許や論文に眠る知見を構造化し、自社データとつなげることで、サステナブル素材開発を、手探りの探索から戦略的R&Dへと進化させます。

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