はじめに ~連載について~
サステナビリティは、いまや材料開発の前提条件となりました。
性能と環境負荷を両立する「選ばれる素材」をどう設計するか。
本連載では、「サステナブル時代の『選ばれる素材』開発ロードマップ~CrowdChemの300万件データと現場を繋ぎ、次世代R&Dの『最適解』を導き出す~」を主テーマに、全10回にわたり、弊社の取り組みや知見も交えながらご紹介していきます。
全10回タイトル:サステナブル時代の「選ばれる素材」開発ロードマップ
~CrowdChemの300万件データと現場を繋ぎ、次世代R&Dの「最適解」を導き出す~
なお、本記事は、全10回の連載のうち、第4回の記事となります。
温室効果ガス排出量削減をR&Dを武器に変える環境対応を「コスト」から「競争優位」
私たちが目指しているのは、温室効果ガス排出量を低減した材料・反応プロセスの最適情報を提供することだけでなく、「環境負荷の低減」と「材料の高性能化」をデータとAIの力で両立させ、脱炭素への取り組みそのものを企業の新たな競争優位性へと昇華させることです。
なぜ、私たちにそれができるのか。
300万件の化学知見と特許取得済みのグラフ学習AIを持つからこそ、材料開発とCO2削減を同時に検討できる基盤をつくることができます。
その力が今求められているのが、多くの製造業が苦しむ「Scope 3(サプライチェーン排出量)」の削減です。
Scope 3削減は、単に排出量を計算するだけでは進みません。
実際に排出量を下げるためには、購入材料、再生材比率、サプライヤー工程、製造プロセス、物性、品質基準を同時に見直す必要があります。
つまり、Scope 3削減は、購買部門やサステナビリティ部門だけの課題ではありません。
材料・配合・プロセス・性能を扱う、R&Dそのものの課題でもあります。
なぜ、Scope 3の削減は「不可能なミッション」に見えるのか
製造業におけるカーボンニュートラル達成の「本丸」は、サプライチェーン全体に広がるScope 3にあります。
特に重要なのが、Scope 3カテゴリ1「購入した製品・サービス」です。
原料、材料、部品などの調達に関わるため、材料開発やサプライヤーとの連携と密接に関係します。

しかし現場では、3つの構造的課題が削減を阻んでいます。
1つ目は、管理権限の不在です。
排出量の多くはサプライヤー工程に依存しており、自社だけでは直接コントロールしにくいという課題があります。
2つ目は、情報の不透明性です。
多重構造のサプライチェーンでは、上流の材料や工程データが十分に届かず、比較や精緻化が難しいケースがあります。
3つ目は、性能と環境価値のトレードオフです。
再生材やバイオマス材などの低炭素材料を採用しようとすると、物性の低下や品質のばらつきが発生し、製品基準を満たせないことがあります。
さらに、多くの企業は業界平均値、いわゆる二次データを用いた算定に頼っています。しかし、二次データだけでは、サプライヤーや材料開発側が行った具体的な削減努力が、自社の数値に十分反映されにくい場合があります。
ここで重要なのは、Scope 3を単なる「報告数値」として見るのではなく、材料開発の設計変数として扱うことです。
排出量を下げるために再生材比率を上げると、強度、耐熱性、流動性、成形安定性が変化します。
製造温度や乾燥条件を変えると、エネルギー消費量は下がるかもしれませんが、品質に影響する可能性があります。
つまり、Scope 3削減とは、「CO2排出量を下げる」だけでなく、「CO2排出量を下げながら、要求物性と品質を満たす」多目的最適化の課題なのです。
LabDXが提供する「R&D直結型」のサプライチェーン統合基盤
この困難な状況を打破するためには、Scope 3を「算定の対象」としてではなく、「サプライヤーとの共同開発テーマ」として再定義する必要があります。
CrowdChemが提供する次世代R&D基盤「LabDX」は、サプライチェーン全体の脱炭素化をバックアップします。
サプライヤーから一次データ、すなわち実測値が得られない場合でも、特許・論文・カタログから抽出した300万件の知見をベースモデルとして活用できます。
材料組成や製造条件、用途、性能値、プロセス情報を構造化し、LCA原単位やサプライヤー実測値と接続することで、排出量を算定・比較し、性能との関係を解析しやすくなります。
ここで重要なのは、CO2排出量だけを見るのではない点です。
材料名、配合、添加剤、再生材比率、混練条件、成形条件、乾燥条件、評価物性などを一体で扱うことで、CO2排出量、強度、耐熱性、流動性、成形安定性、コスト、調達性といった複数の目的を同時に検討できます。
これにより、単なる「低炭素材料の探索」ではなく、「使える低炭素材料の設計」へと検討を進めることができます。
たとえば、再生材を増やすとCO2排出量は下がる一方で、強度や耐熱性が低下する場合があります。そのとき、再生材比率だけを見るのではなく、補強材の種類、繊維長、混練条件、成形温度、乾燥条件などをあわせて解析します。
「どの因子が性能低下に効いているのか」
「どの条件ならCO2削減と品質基準を両立できるのか」
このように探索できることが、Scope 3削減をR&Dの武器に変える理由です。
社内実験データと外部知見を、同じ形式でMI/PI解析へ
ここでは、自動車部品などに用いられるPPS樹脂の再生材活用を例に考えます。

上図は、PPS再生材の開発データを例に、LabDXで構造化できるデータ項目を示したイメージです。社内に蓄積された実験ノート、Excel、装置条件、評価結果に加え、特許・論文・製品カタログなどの外部知見も、同じ形式で取り込むことができます。
特開2026-25919では、PPS樹脂やポリアミドなどのガラス繊維強化再生熱可塑性樹脂組成物に関する技術が示されています。再生材を活用する上での課題として、リサイクル時に内部に含まれるガラス繊維が折損し、強度が低下することが挙げられます。
これに対し、特定の元素を持つ高弾性ガラス繊維を混合することで、補強効果を疑似的に再生する考え方を示しています。
この事例から見える重要なポイントは、再生材活用では「再生材比率」だけを見ても不十分だということです。再生材の比率を上げれば、バージン材の使用量を減らすことができ、Scope 3カテゴリ1の削減につながります。しかし同時に、リサイクル過程でガラス繊維が短くなり、強度や耐久性が低下する可能性があります。
そのため、低炭素化の検討では、再生材比率、ガラス繊維の種類、繊維長、補強材の配合比率、混練条件、成形温度、乾燥条件、強度、耐熱性、CO2排出量を、ばらばらの情報としてではなく、つながった開発データとして扱う必要があります。
LabDXでは、これらの情報を、原料、配合、工程、評価、物性がつながる共通フローとして構造化します。たとえば、PPS再生材の検討では、再生材、ガラス繊維、補強材、混練条件、成形条件、強度評価といった情報を一連の流れとして接続します。
重要なのは、単にデータを整理するだけではない点です。
材料・配合・工程・評価結果を共通フロー形式で構造化することで、社内に散在していた実験データを、再利用可能なデータ資産として蓄積できます。さらに、その構造化データは、そのままMI/PI解析に活用できます。
構造化されたデータを因子分析、物性予測、条件最適化、代替材料探索につなげることで、再生材比率を高めた場合にどの程度まで強度を維持できるのか、どの工程条件が物性に影響しているのか、CO2排出量の算定・比較と要求性能をどの条件で両立できるのかを検討できます。
つまりLabDXは、社内実験データと外部知見を、解析に使える共通フロー形式へ変換し、材料開発の知見を蓄積・再利用・解析できる開発基盤です。
Scope 3削減を、R&Dで進めるために
Scope 3削減は、算定や報告だけでは前に進みません。
実際に排出量を下げるには、材料・配合・プロセス・性能の関係を見直し、R&Dテーマとして扱う必要があります。
低炭素材料を採用しても、性能が落ちれば使えない。
再生材比率を上げても、品質が安定しなければ量産にはつながらない。
だからこそ、CO2排出量の算定・比較と物性解析を同時に扱える開発基盤が必要です。
CrowdChemは、LabDXを通じて、Scope 3削減を具体的な材料開発テーマへ落とし込む取り組みを支援します。
※画像2は、公開特許情報を参考にした構造化例です。社内実験データにも同じ形式を適用できます。CO2排出量は特許に記載された実測値ではなく、実際の解析ではLCA原単位や一次データと接続して算定・比較します。


