イミダゾールとは?その多彩な用途から最新の応用技術、製造方法までを徹底解説

五員環上に窒素原子を2つ含むイミダゾールは、生理活性の強い有機化合物の構造の一部として様々な機能を発現します。本記事ではイミダゾールについての理解を深めることを目的に用途、物性、構造、製造方法、メーカーについて詳しく紹介します。

目次

イミダゾールとは

イミダゾールは、五員環上に窒素原子を含む複素環式芳香族化合物です。イミダゾール環上の窒素や炭素に多種多様な置換基を結合させて誘導体化することで、医薬品から日用品まで様々な用途に利用されています。

イミダゾールの歴史

イミダゾールが最初に文献に現れたのは1958年とされています。当時のドイツの化学者 Debus(ディーバス)がグリオキザールとアンモニアの反応物である結晶を「グリオキザリン」と命名しました。

その後、Hantzsch(ハンチ)が、その結晶がイミド(イミノ)基を有する構造であることを明らかにしてイミダゾールと命名、現在に至ります。

(参考文献:色材協会誌 ”Ueber Verbindungen des Thiazols 1887 (pyridins der Thiophenrerhe)”, Berichte der deutschen chemischen Gesellschaft ,20:3228-3132.)

イミダゾールの特徴

イミダゾールには2つの特徴があります。1つ目は、ヒスチジンやヒスタミンなどの一部を構成する生化学物質として生理活性を示すことです。この特徴を利用して、医薬品への応用が古くからなされています。

2つ目は、イミダゾールが塩になることで液体の塩となり「イオン液体」としての性質を発現することです。イオン液体は、液体でありながら高い電気伝導度を示すことから、電解質やセルロースを溶解できる特殊な溶媒としての用途が開発されています。

イミダゾールの用途

イミダゾールは、その生活機能を利用して抗真菌剤、抗高血圧剤、抗喘息剤、抗潰瘍剤の原料に使用されます。

また、エポキシ樹脂の硬化剤やポリウレタンの発砲触媒、帯電防止剤、防錆剤、ゴムの加硫促進剤、塗料、接着剤、写真感光材など多岐にわたって利用されています。

最近の技術として、イミダゾールの2つの窒素にアルキル基を結合させて得られたイミダゾリウム塩(たとえば、1-ethyl-3-methylimidazolium saltなど)が「イオン液体」になることで、様々な応用技術が期待されています。

たとえば、水や通常の有機溶剤に溶けにくいセルロースが、イミダゾール系のイオン液体には溶解します。これにより、セルロースを繊維や膜などに用途展開することが可能となります。

イミダゾールの物性

イミダゾールの物性は、以下のとおりです。

分子式C3H4N2
分子量68.08g/mol
外観無色~黄色(固体)
溶解性可溶:水、エタノール不溶:ジエチルエーテル、ベンゼン、ヘキサン
融点89~90℃
沸点初留点及び沸騰範囲256℃~268℃
引火点145℃
参考:厚生省職場の安全サイト(イミダゾール安全データシート)より抜粋

イミダゾールの構造

イミダゾールは、五員環上に窒素原子を1,3位に含みます。IUPAC命名法では、NHのN(窒素)を1。そこから反時計回りに2(炭素)、3(窒素)、4(炭素)、5(炭素)と番号がつけられます(下図)。その番号に様々な置換基を結合させて様々な誘導体が合成できます。

出典:欧州化学品庁(ECHA)Imidazole

誘導体の例として、2の位置の炭素にメチル基が結合した2-methylimidazoleや、1の窒素にベンジル基、2の炭素にメチル基が結合した1-benzyl-2-methyl-1H-imidazoleがあります。

イミダゾールの反応メカニズム

イミダゾールの特徴に生理活性があることは、先に解説したとおりです。イミダゾールが生理活性を示す理由は、イミダゾール基がわずかな環境の変化においても、酸としても塩基としても機能するためです。

つまり、イミダゾール基の等電点が中性付近にあるため、局所的なpHの変化に機敏に反応しながら芳香族性を崩さずに電荷を分散安定化するのです。そのため、活性酸素を消去したり他の物質に変換したりしやすくなります。

イミダゾールの製造法

イミダゾールの合成法が初めて開発されたのは1858年です。Debus, Heinrichによるグリオキサールにアンモニアとホルムアルデヒドを反応させる手法です。その後、Bredereck(ブレデレック)によって、α-ジケトンもしくはα-ヒドロキシケトンとホルムアミドを反応させる手法が開発されました。

近年では、東ソー株式会社によりニトリル類とエチレンジアミン類からイミダゾール誘導体を合成する方法(特許第3849157号)が提案され、四国化成工業株式会社が、金属触媒で脱水素去する方法(特公昭39-26405)で製造しています。その他、アンモニアとホルムアルデヒドを高圧下液相中で合成する方法などがあります。

参考文献:有機合成化学協会誌、ケミカルス覚え書き2置換イミダゾール類

イミダゾールを製造しているメーカー

イミダゾール(誘導体を含む)を製造している主な国内メーカーは、以下のとおりです。様々な用途に、様々なグレードの製品が製造・販売されています。詳細は各社のウェブサイトをご参照下さい。

企業名主な製品名
キシダ化学株式会社イミダゾール
川口化学工業株式会社イミダゾール類

まとめ

イミダゾールは、五員環上に窒素原子を1,3の位置に含む複素環式芳香族化合物という構造上の特徴を活かして、多種多様な誘導体に変換できます。

それらの誘導体は構造特性に起因する高い生理活性を示し、医薬品から日常品まで様々な用途で利用され、私達の生活に浸透しているのです。

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記事監修者

池端 久貴のアバター 池端 久貴 代表取締役

代表取締役 池端 久貴
化学メーカーで営業、半導体装置メーカーでマーケティングの経験を経て、総合研究大学院でマテリアルズ・インフォマティクスを研究。その後、統計科学博士を取得し、旭化成(株)でマテリアルズ・インフォマティクスや自然言語処理技術活用の推進に従事。2022年に(株)CrowdChemを創業。

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