「耐熱性を高めると密着性が落ちる」「高周波特性に優れていても加工性が悪い」……プリント基板用樹脂の最適な配合を考えたとき、このように悩んだことはありませんか。
CrowdChem Data Platformを使えば、実験を行わなくてもさまざまな物性値を簡単に予測し、評価することができます。豊富なデータベースとAIの力で、開発プロセスを大幅に効率化します。
本記事では、プリント基板用ポリフェニレンエーテル樹脂(PPE樹脂)の開発を例に、データ駆動型の材料設計アプローチについて解説します。従来の試行錯誤型の開発から、効率的な材料設計への転換がいかに可能か、具体的な事例とともにご紹介します。
材料開発の効率化を目指す研究開発部門の方、データ活用による開発プロセスの改善を検討されている方は、ぜひご一読ください。
プリント基板材料における主要課題
プリント基板に用いられるPPE樹脂は、高周波特性や難燃性、寸法安定性に優れる一方で、耐熱性を高めると銅箔との密着性が低下するなど、複数の物性のトレードオフが開発上の課題です。従来のポリビニルベンジル化合物やPPE樹脂との併用例においても密着性の不足が指摘されており、性能を両立させる材料配合の探索が求められています。
課題解決の鍵を握る特許技術
特開2007-112826では、特定のビニルベンジル化合物とPPE樹脂の組み合わせによって、プリント基板材料に求められる耐熱性と密着性の両立を図る技術が提案されています。この組成は、高周波特性や加工性、難燃性といった他の物性とのバランスにも優れており、従来課題の解決に資するものです。
しかし、構成成分や配合比の選定には複数の変数が絡み、単一の特許情報だけでは再現が難しいケースも少なくありません。こうした背景から、特許データと材料物性データの両面を横断的に参照できる仕組みが求められています。
評価に必要な物性と目標値
プリント基板材料における性能評価では、耐熱性と密着性が重要な指標となります。PPE樹脂をベースとした組成においては、ガラス転移温度(Tg)で250℃以上、銅箔ピール強度で1.5N/mm以上を目標とするケースが一般的です。これらの物性は配合や樹脂設計に大きく左右され、どちらか一方を優先すると他方が低下することも少なくありません。複数の目標物性を同時に満たすには、構成成分の特性とその相互作用を多角的に評価する必要があります。
AIシミュレーションを用いた材料選定
PPE樹脂を用いたプリント基板材料の開発では、ガラス転移温度(Tg)や銅箔ピール強度といった物性のバランスが重要な評価項目となります。CrowdChemでは、これらの物性に影響を与える構成要素をAIによって要因分析し、最適な材料組成の絞り込みを支援します。
PDF資料に基づく実験では、樹脂組成物を構成する「樹脂(A)」「硬化剤(B)」「充填材(C)」「添加剤(D)」のうち、特に樹脂(A)の種類がTgおよび密着性に大きな影響を与えることが示されました。Tgへの影響度が高い材料としては、例えば末端ジビニルベンジルポリフェニレンエーテル樹脂(OPE-2st 1200)やポリフェニレンエーテル(PPO)が、密着性(銅箔ピール強度)に対しては高分子量ポリフェニレンエーテル(Sabic640-111)などが有望であることが分かっています。
Tgの上位には、LXR-040C、PPO、OPE-2st 1200といった高性能PPE樹脂がランクインしており、これらは耐熱性の面で優れた結果を示しました。一方で、銅箔ピール強度の観点では、密着性を重視した場合に候補材料が異なるため、単一の物性で選定することの難しさが浮き彫りになります。複数物性をバランスよく満たすためには、これらの評価軸を同時に加味したマルチパラメータ分析が求められます。
CrowdChemでは、こうした実験・評価データをもとに、AIが各物性に寄与する構成成分を自動的に抽出・可視化し、条件に応じた最適な材料候補を効率的に提示します。物性間のトレードオフを踏まえたうえで、開発目標に合致する組成案を迅速に提案できるため、試作前段階から設計精度の高い開発アプローチが可能になります。
このように、AIによる材料選定の絞り込みにより、従来必要だった多くの試作・評価工程を大幅に削減することが可能です。開発期間の短縮とコスト削減に直接的に貢献できる点で、研究開発現場での実用的な価値が高いと考えられます。
CrowdChemがプリント基板開発を加速させる
プリント基板用PPE樹脂の開発において、AIとデータベースを活用した材料設計は、耐熱性と密着性といった複数物性の最適バランスを効率よく見極めることを可能にします。
特に、AIによる材料選定の絞り込みは、試作回数の削減と開発期間の短縮をもたらし、開発効率を大幅に向上させます。新素材をスピーディーに開発できるようになることで、ビジネスチャンスも広がるかもしれません。
CrowdChemの「CrowdChem Data Platform」は、化学分野における製品情報や特許データを活用し、このような効率的な研究開発を支援します。さらに、「CrowdChem Data Analytics」なら自社データがなくても、専門家とのヒアリングを通じて特許や外部情報を活用したカスタマイズ分析が可能です。両者を活用することで、企業の特定のニーズに応じた最適な素材やプロセスの組み合わせを導き出すことができます。
※なお、本記事に記載された内容は弊社の研究結果に基づくものであり、その完全性や適用性を保証するものではありません。