「柔軟性を持たせると耐熱性が足りない」「放熱性を高めたいが、伸び率との両立が難しい」ポリウレタン樹脂の開発現場で、こんな悩みを抱えていませんか?
CrowdChem Data Platformを使えば、実験を行わなくてもさまざまな物性値を簡単に予測し、評価することができます。豊富なデータベースとAIの力で、開発プロセスを大幅に効率化します。
本記事では、ポリウレタン樹脂の開発を例に、データ駆動型の材料設計アプローチについて解説します。従来の試行錯誤型の開発から、効率的な材料設計への転換がいかに可能か、具体的な事例とともにご紹介します。
材料開発の効率化を目指す研究開発部門の方、データ活用による開発プロセスの改善を検討されている方は、ぜひご一読ください。
ポリウレタン樹脂における主要課題
電子部品の封止材として広く用いられるポリウレタン樹脂には、柔らかく変形に強いこと、高温環境でも安定して使えること、内部にこもる熱を外に逃がせること、水分による劣化を起こしにくいことなど、複数の性能が同時に求められます。
柔軟性は破断までの伸び率で評価され、放熱性は熱伝導率、耐湿性は吸水率の低さで確認されます。しかし、これらの性能は互いに影響しあうことが多く、たとえば熱伝導率を高めようと無機充填剤を多く加えると、柔軟性が下がるといったジレンマが生じます。また、イソシアネートを加熱などによって環状構造に変化させる「イソシアヌレート変性」を行うことで耐熱性を高める手法もありますが、この処理によって材料は硬くなり、柔軟性が損なわれるという課題もあります。
こうした特性のバランスをとるために、従来は数多くの配合試作と実験を繰り返す必要があり、開発の長期化やコスト増につながっていました。
課題解決の鍵を握る特許技術
こうした複数物性のトレードオフに対し、有効なアプローチとして参考にできるのが、先行技術として蓄積された特許情報です。たとえば、特開2022-160857号では、ポリウレタン樹脂の柔軟性を維持しながら耐熱性や放熱性を高める手法として、2種類のポリイソシアネートを併用する構成が提案されています。
具体的には、HDI(ヘキサメチレンジイソシアネート)のイソシアヌレート変性体と、MDI(4,4′-ジフェニルメタンジイソシアネート)の水素添加物を組み合わせ、そこにポリブタジエンポリオールや可塑剤を加える設計です。さらに、無機充填剤を高濃度で配合することで、熱伝導率や耐湿性といった物性の向上も図られています。
こうした設計の工夫により、従来は相反していた性能を同時に満たす材料の可能性が見えてきます。
評価に必要な物性と目標値
ポリウレタン樹脂を新たに設計する際、性能を確認するためにはいくつかの重要な物性を評価する必要があります。
まず柔軟性については、破断までの伸び率が一つの指標となり、目安としては300%以上が求められます。放熱性を評価する際には、熱伝導率が基準となり、1.0W/mK以上が一つのターゲットとなります。耐湿性については、吸水率の低さが指標となり、1%未満であることが目標とされます。
このほか、耐久性や使用環境を想定した上で、加水分解への耐性や長期間にわたる物性の安定性も確認項目に含まれます。
これらの複数物性を同時に満たす配合を見つけるには、多数の実験を伴う試行錯誤が必要でしたが、CrowdChemのデータ活用により、このプロセスを大きく変えることが可能になります。
AIシミュレーションを用いた材料選定
複数の物性を両立させるポリウレタン樹脂を開発するには、どの成分がどの性能に影響するかを把握する「要因分析」が欠かせません。
たとえば放熱性の指標である「熱伝導率」に対しては無機充填剤の配合率が大きく影響しており、充填剤比率が高いほど放熱性が向上する傾向が見られました。一方で、「伸び率」に関しては可塑剤やポリブタジエンポリオールの配合が強く関与し、柔軟性を高める要因とされています。また、「耐薬品性」は主にイソシアネートの構造、特にMDI系とHDI系の組み合わせ方によって左右されることが示唆されています。
予測結果のランキングでは、熱伝導率と伸び率を両立する配合候補が上位に抽出されており、特に高充填の無機フィラーと柔軟性を高める成分との組み合わせが高評価を得ていました。これにより、従来は物性のバランスが取りにくかった複合性能の材料についても、最適な配合設計の方向性が具体的に見えてきます。
CrowdChemでは、こうした要因分析と予測のプロセスを、蓄積されたデータとAI技術によって効率的に再現することが可能です。ユーザーは目的とする物性を入力するだけで、複数の性能を同時に満たす候補配合を高精度で絞り込むことができ、早期の試作・評価へとスムーズに移行できます。
このように、AIによる材料選定の絞り込みにより、従来必要だった多くの試作・評価工程を大幅に削減することが可能です。開発期間の短縮とコスト削減に直接的に貢献できる点で、研究開発現場での実用的な価値が高いと考えられます。
CrowdChemがポリウレタン樹脂開発を加速させる
ポリウレタン樹脂の開発において、AIとデータベースを活用した材料設計は、柔軟性・放熱性・耐湿性などの複数の物性を同時に満たす配合の発見を可能にします。特に、AIによる材料選定の絞り込みは、試作回数の削減と開発期間の短縮をもたらし、開発効率を大幅に向上させます。新素材をスピーディーに開発できるようになることで、ビジネスチャンスも広がるかもしれません。
CrowdChemの「CrowdChem Data Platform」は、化学分野における製品情報や特許データを活用し、このような効率的な研究開発を支援します。さらに、「CrowdChem Data Analytics」なら自社データがなくても、専門家とのヒアリングを通じて特許や外部情報を活用したカスタマイズ分析が可能です。両者を活用することで、企業の特定のニーズに応じた最適な素材やプロセスの組み合わせを導き出すことができます。
※なお、本記事に記載された内容は弊社の研究結果に基づくものであり、その完全性や適用性を保証するものではありません。