エポキシ樹脂の物性評価:AIとビッグデータで放熱性と耐熱性のトレードオフを解消
「エポキシ樹脂の種類が多すぎて最適な選定が難しい」「放熱性を高めたいが、耐熱性が保てない」「目標物性に合う配合を見つけるのに時間がかかる」……材料開発における、こうした課題を抱えていませんか?
CrowdChem Data Platformを使えば、実験を行わなくてもさまざまな物性値を簡単に予測し、評価することができます。豊富なデータベースとAIの力で、開発プロセスを大幅に効率化します。
本記事では、熱硬化性エポキシ樹脂の開発を例に、放熱性と耐熱性(ガラス転移温度)のトレードオフという課題をどう乗り越えるか、データ駆動型の材料設計アプローチについて解説します。従来の試行錯誤型の開発から、効率的な材料設計への転換がいかに可能か、具体的な事例とともにご紹介します。
材料開発の効率化を目指す研究開発部門の方、データ活用による開発プロセスの改善を検討されている方は、ぜひご一読ください。
熱硬化性エポキシ樹脂における主要課題
熱硬化性エポキシ樹脂は、耐薬品性や接着性、機械的強度に優れ、電子部品や構造材料として広く使われています。 しかし、放熱性と耐熱性を同時に高めることは難しく、開発現場での大きな課題となっています。
たとえば、放熱性を上げることを目指して熱伝導性を向上させようとすると、逆に耐熱性の指標であるガラス転移温度(Tg)は低下してしまうことがあります。高性能な材料を目指すほど、こうしたトレードオフのジレンマが顕在化し、材料選定や配合検討に多くの試作と時間を要するのが現状です。
課題解決の鍵を握る特許技術
特許情報(特開2021-015932号公報)では、熱硬化性エポキシ樹脂の放熱性と耐熱性を両立させるために、エポキシ樹脂・無機フィラー・硬化剤・硬化促進剤・カップリング剤の組み合わせによる材料設計が提案されています。
注目すべきは、「この材料だけを変えれば良い」という発想ではなく、複数の構成要素を同時に見直すことで、性能のバランスを最適化するという考え方です。
従来の延長線上では解決できなかった物性トレードオフに対し、配合全体を“設計”として扱う発想が、有効なアプローチとなりつつあります。
評価に必要な物性と目標値
熱硬化性エポキシ樹脂の開発においては、熱伝導率と**ガラス転移温度(Tg)**が特に重要な評価指標とされています。放熱性を求める用途では、熱伝導率0.5 W/m·K以上がひとつの目安となり、同時に高温環境下での寸法安定性を確保するために、Tgは150℃以上が望まれます。
しかし、これらの物性は一方を高めると他方が犠牲になる傾向があるため、開発現場ではどの材料を選び、どう組み合わせれば両立できるかを判断するのが困難です。
そこで活用できるのが、AIによる物性予測を活用した配合設計です。複数候補の物性データをもとに、目標性能に近づく組み合わせを短時間でシミュレーションできるため、試作の回数や時間を大幅に削減できます。
AIシミュレーションを用いた材料選定
CrowdChemのAIシミュレーションでは、まず熱伝導率やガラス転移温度(Tg)に影響を与える要因を分析するところから始まります。
要因分析では、たとえば熱伝導率は芳香族構造の密度が高い樹脂で向上しやすく、Tgは分子の剛直性や分子間相互作用の強さが鍵となることが示されています。これにより、材料の特性を決定づける構造的・化学的な特徴が定量的に把握できるようになります。
こうした知見をもとに、次に行うのがAIによる配合予測です。実際に評価された複数のエポキシ樹脂を対象に、熱伝導率とTgのランキングが示されており、両特性を高めるためのバランスのとれた組み合わせが導かれています。
たとえば、熱伝導率の高いクレゾールノボラック型エポキシ樹脂(N-655-EXP-S)と、ガラス転移温度(Tg)の高いビスフェノールF型エポキシ樹脂(YDF-8170C)の組み合わせは、両特性のバランスが良好であり、放熱性と耐熱性のトレードオフを乗り越える有望な構成として予測されています。
AIシミュレーションでは、このように材料特性の関係性を学習し、相補的に両立可能な配合を予測することができます。AIによる材料選定の絞り込みにより、従来必要だった多くの試作・評価工程を大幅に削減できれば、開発期間の短縮とコスト削減につながるでしょう。
CrowdChemが熱硬化性エポキシ樹脂の開発を加速させる
熱硬化性エポキシ樹脂の開発において、AIとデータベースを活用した材料設計は、放熱性と耐熱性という相反する特性の両立を短期間で達成することを可能にします。特に、AIによる材料選定の絞り込みは、試作回数の削減と開発期間の短縮をもたらし、開発効率を大幅に向上させます。新素材をスピーディーに開発できるようになることで、ビジネスチャンスも広がるかもしれません。
CrowdChemの「CrowdChem Data Platform」は、化学分野における製品情報や特許データを活用し、このような効率的な研究開発を支援します。さらに、「CrowdChem Data Analytics」なら自社データがなくても、専門家とのヒアリングを通じて特許や外部情報を活用したカスタマイズ分析が可能です。両者を活用することで、企業の特定のニーズに応じた最適な素材やプロセスの組み合わせを導き出すことができます。
※なお、本記事に記載された内容は弊社の研究結果に基づくものであり、その完全性や適用性を保証するものではありません。