PLA発泡シートの物性評価:AIが導く環境配慮と高性能の両立

ポリ乳酸発泡シートの未来:環境配慮と高性能の融合

「新規材料の物性評価に時間がかかる」「試作のコストが高い」「適切な評価手法が分からない」……材料開発における、こうした課題を抱えていませんか?

CrowdChem Data Platformを使えば、実験を行わなくてもさまざまな物性値を簡単に予測し、評価することができます。豊富なデータベースとAIの力で、開発プロセスを大幅に効率化します。

本記事では、PLA発泡シートの開発を例に、データ駆動型の材料設計アプローチについて解説します。従来の試行錯誤型の開発から、効率的な材料設計への転換がいかに可能か、具体的な事例とともにご紹介します。

材料開発の効率化を目指す研究開発部門の方、データ活用による開発プロセスの改善を検討されている方は、ぜひご一読ください。

PLA発泡シートにおける主要課題

PLA(ポリ乳酸)は、再生可能資源を原料とする生分解性プラスチックとして、食品容器や断熱材分野での採用が進んでいます。しかし、実用化に向けては、以下の技術的課題の克服が不可欠です:

  • 表面性と断熱性の両立:食品容器としての実用性を確保するためには、表面の滑らかさ(ラミネート性、シール性)と断熱性の両立が求められます。特に、滑らかな表面を実現しようとすると熱伝導率が上昇し、断熱性が低下することが製品設計における大きな課題となっています。
  • 微細発泡の安定性確保:CO₂発泡剤を用いた発泡工程において、発泡径の安定性確保が技術的な壁となっています。食品容器用途では、表面品質の確保と均質な発泡構造の両立が特に重要です。発泡径のばらつきは、製品の機械的特性や外観品質に直接影響を及ぼすため、厳密な制御が必要です。
  • 環境負荷と性能のバランス:環境配慮型材料としての特性を活かしつつ、高い性能を実現するためには、発泡剤使用量の最適化が重要です。これには効率的な材料設計が不可欠であり、特に量産化を見据えた場合、コスト面での競争力も考慮する必要があります。

これらの課題に対し、業界では様々な新しい技術の開発が進められています。

課題解決の鍵を握る特許技術

例えば、特開2023-140753に開示された技術では、PLA発泡シートの物性向上に向けて、以下のような新しいアプローチが採用されています:

高疎水化度と炭素含有量の高い無機粒子の活用

疎水化度65%以上、炭素含有量4%以上という特徴を持つ無機粒子を使用することで、微細発泡の実現が可能になります。この技術により、従来課題とされてきた表面性の向上と発泡径の均一化を同時に達成できます。

二軸押出機による高精度な混練プロセス

二軸押出機を用い、圧縮性流体下でポリ乳酸の融点以下での加工を実現する技術が注目を集めています。このプロセスでは、PLAの粘度を最適な範囲に維持しながら、無機粒子を均一に分散させることが可能です。これにより、気泡核の形成が促進され、発泡剤の濃度を精密に制御することで、表面性と断熱性の両立を実現しています。

これらの特許技術は、従来のPLA発泡シート製造では達成が困難だった性能バランスの確保を可能にします。特に、食品容器用途で重要となる表面品質と断熱性の両立において、大きなブレイクスルーとなっています。

評価に必要な物性と目標値

PLA発泡シートの実用化に向けては、以下の物性値を測定し、目標値を満たすことが重要です:

  • 発泡径と嵩密度:食品容器としての品質を確保するため、発泡径は300μm以下、嵩密度は0.03~0.35g/cm³を目標とします。特に発泡径の制御は、製品の表面品質と強度特性に直接影響を与えるため、重要な管理項目となります。
  • 再結晶化エンタルピー:示差走査熱量測定(DSC)により、再結晶化エンタルピーを評価します。30J/g以上という目標値は、製品の熱安定性と成形性を確保するための重要な指標です。この値が基準を下回ると、製造プロセスでの安定性や最終製品の品質に影響を及ぼす可能性があります。
  • CO₂発泡剤の添加量:均質な発泡構造を実現するため、CO₂発泡剤の添加量を2~5質量部の範囲で調整します。この値は、二軸押出機での加工条件と組み合わせることで、目標とする発泡構造の実現に寄与します。
  • 断熱性:食品容器としての重要な機能である保温性能を確保するため、発泡シートの熱伝導率を測定します。この値は、製品の実用性を直接的に示す指標となります。

これらの物性値は、開発段階における材料設計の指標となるだけでなく、量産時の品質管理基準としても活用されます。特に食品容器用途では、これらの基準を安定的に満たすことが、製品の市場競争力を左右する重要な要素となります。

AIシミュレーションを用いた材料選定

さらにCrowdChem Data Platformを用いることで、これらの傾向を学習した大規模なAIを構築し、最適な材料を予測することを試みました。以下の図が分析結果です。嵩密度、発泡径共に金属粉末が大きく寄与していることがわかります。

さらに、この金属粉末として最適な物質についても、解析を行いました。

評価結果から、嵩密度と発泡性とを両立する材料は以下の4つであることがわかりました:

  • 酸化亜鉛粒子
  • カオリン(FB-302X)
  • ガラス繊維(S235)
  • Eガラス繊維(CS321)

このように、AIによる材料選定の絞り込みにより、従来必要だった多くの試作・評価工程を大幅に削減することが可能です。開発期間の短縮とコスト削減に直接的に貢献できる点で、研究開発現場での実用的な価値が高いと考えられます。

CrowdChemがPLA発泡シート開発を加速させる

PLA発泡シートの開発において、AIとデータベースを活用した材料設計は、環境配慮と高性能の両立を可能にします。特に、AIによる材料選定の絞り込みは、試作回数の削減と開発期間の短縮をもたらし、開発効率を大幅に向上させます。新素材をスピーディーに開発できるようになることで、ビジネスチャンスも広がるかもしれません。

CrowdChemの「分析サービス」と「CrowdChem Data Platform」は、化学分野における製品情報や特許データを活用し、このような効率的な研究開発を支援します。社内データがなくてもゼロベースから始められますので、ぜひご検討ください。

※なお、本記事に記載された内容は弊社の研究結果に基づくものであり、その完全性や適用性を保証するものではありません。

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記事監修者

徳田優希のアバター 徳田優希 事業開発統括